第20章 遭遇
ズルズルと引き摺られながら月奈はのんびりと空を仰いでいた。
(天気良いなぁ。千寿郎さん、一人で洗濯物大変だろうなぁ)
街往く人々は、蜜璃と月奈の姿にギョッとした表情をして端へと避けていく。それもそうだろう、引き摺る女はとても慎ましいとは言えない服を来て平然と歩いている上、引き摺られている女は対照的に着込みすぎじゃないかと思われる程に肌の露出が少ない。見える部分は目元だけ。
そして何より、双方が双方の行動に動じて居ないことが一番驚かれている事に当人達は気付いていない。
蜜「月奈ちゃん、ごめんね。無理矢理ついてきちゃって」
「いえ、私は構いませんよ。蜜璃さんは蛇柱様と仲が良いのですか?」
良くよく聞けば、何のことは無い。互いの任務が忙しく、会う暇が無かったようだ。その上で今日会えることになっていたが予定が入ったと鴉から伝えられ蜜璃は落ち込んでいたのだった。
(その予定ってまさかこの御遣いのことなんじゃ...だとすれば原因は槙寿郎様だけど、この状況では確実に私が邪魔者)
ふと頭に小芭内を思い浮かべた月奈は、高確率で天元のようにネチネチ言われるだろうと予想した。そりゃ、恋人の逢瀬の間に割って入った様なものなのだ、それが意図していなかったとしても二人からすれば憎々しいもの。
「あれ?蜜璃さんは伊黒様とお付き合いされてるのですか?」
そもそも恋人の話を蜜璃から聞いた事が無かった月奈は当然の疑問を投げ掛ける。すると蜜璃は顔を赤くして振り向いた。
蜜「わわわわ私と伊黒さんが付き合っ...!?やだ!月奈ちゃんったら!」
「私は御遣いが終わったらすぐ帰りますので、お二人でゆっくりして下さい。馬に蹴られたくないので」
蜜「え?馬?」
人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ
つまり野暮な事をするなと言うことだ。それに、小芭内は蜜璃だけに優しいと隊士の間では有名な話。蜜璃の反応からしても、双方大事に想っている相手だとしてその間に入ろうものなら...
(馬に蹴られる前に蛇柱様の睨む視線で死ぬかもしれない...)
蛇のように冷たい視線を想像した月奈はゾッとした。やはり長居せずすぐに帰ろう、一人うんうんと頷いている月奈を蜜璃は不思議そうに見ながらも一つの門の前で立ち止まった。