第20章 遭遇
申し訳なさそうな表情でそれを差し出され受け取ったしのぶは、文一つ一つの宛名を見て「あぁ」と思い出す。
し「釣書のお返事ですか。私から渡しておきますね、それにしてもこんなに丁寧にしなくても良いと思いますが…」
目の下にうっすらとクマを作った月奈に呆れながらも、丁寧に義理を尽くすところが育ちの良さを表しているとしのぶは思う。日常の任務で会うことが少ないしのぶは、任務中の月奈がどのような振る舞いをしているのかよく知らない。
ーしかし、これだけの釣書が来るということは雰囲気や所作で惹かれているのでしょうね。
隠は任務中は顔布で目から下を覆っている為顔の造形についてはっきりと分からない。まぁ、任務中に顔布を外すようなことをしていなければ、ですが。
「ご迷惑おかけしますが、よろしくお願いします。それでは…」
し「あら?もう戻るのですか、もう少しで甘露寺さんもこちらに来られますよ。ゆっくりお茶でも飲んでいく時間も無いのですか?」
「槇寿郎様から依頼された物を蛇柱様のところへ届けに行かないといけないのですが…蜜璃さんにも久しくお会いできていないですし、どうしよう。急ぎとは言われてないけれど...」
し「伊黒さんの所に?それなら増々甘露寺さんを待つといいですよ」
ニコリと微笑んだしのぶに月奈は首を傾げたが、取り敢えず届け物は後にして蜜璃を待つこととなった。
(蛇柱様にお会いするのに蜜璃さんは関係ないと思うけれど…まぁいいか)
槙寿郎にはしのぶから連絡しておくという風に言われてしまった以上、月奈は大人しく蝶屋敷に留まる他無い。無論、槙寿郎から預かったものが急ぎのものという返答が返ってくるならば別だが、おそらくそれはないだろう。そもそも急ぎであれば、物を渡す時にそう言っていたはずなのだから。
通された蝶屋敷の客間でお茶を啜りながら月奈はふと蜜璃が杏寿郎の元継子であることを思い出していた。結局は炎の呼吸は継承出来ず派生として恋の呼吸を会得した蜜璃。今でも杏寿郎を師範と呼ぶ程仲が良い。
(それに、継子時代は私みたいにあの家で一緒に生活していたのよね)
二人の間で何かが目覚めることは無かったのだろうか。月奈の目には二人とも魅力的に映るが、双方感じる物は無かったのだろうか。