第20章 遭遇
「今日は、蝶屋敷に行ってきます!日が暮れるまでに戻りますね」
徹夜で釣書の返事を書き終えた月奈は、朝食の席で鮭をつつきながら伝える。釣書の件はもちろんだが、肩の傷の定期診察も含んでいるので、用事が全て終わる頃にはおそらく昼を回るだろう。
槇「そうか。それなら一つ届け物を頼んでもいいか?」
「はい!勿論です!」
隠は時に隊士達の荷物のやり取りを仲介することもある。文程度であれば鎹鴉で事足りるが、さすがに小包ともなれば鎹鴉は飛ぶことが出来ないからだ。
(それにしても珍しいわ、槇寿郎様が誰かに届け物なんて)
少々失礼な事を考えていた月奈は朝食の片付けを済ませ槇寿郎の部屋へと向かった。部屋に入ると小さな包みが置かれており届け先を書いた紙を渡される。てっきり蝶屋敷への届け物だと思っていた月奈はその場で紙を開いて住所を確認し驚く。
槇「頼めるか?不安であれば他の隠に依頼するが」
「いえ届けることに問題はありません。ただ槇寿郎様と関係のある方と思わず驚きました」
住所とともに書かれていたのは意外な名前だった。
(伊黒小芭内様…蛇柱を拝命している方だわ)
槇寿郎と柱の時期は被っていないはず。しかし、元柱と現柱ともなれば、一般隊士は知らない繋がりがあるのかもしれない。月奈は余計な詮索は止めようと思い小包に視線を向ける。持ち上げてみるとそれ程の重さは無く、包の大きさも両手で持てば余る程の小ささだ。
槇「中身は型崩れの無いように丁重に扱ってくれ、頼んだぞ」
(型崩れ…柔らかいもの?それともガラス細工のような繊細な物かしら?)
「分かりました。万一がないよう注意してお届けします」
カバンから風呂敷と手拭いを取り出し丁寧に包むと、カバンに仕舞った。
し「もうカバンを背負っても肩は痛みませんか?血鬼術も解けて良かったですね」
隊服を着直した月奈は、問診をするしのぶに肩を動かして大丈夫と頷いてみせる。
「背丈が縮むだけでこれ程日常生活が過ごし辛いなんて思いもしなかったですよ。ですが、血鬼術のおかげで煉獄家の皆さんに少し恩返しができたので悪い事ばかりでもなかったです」
恩返し?とそのぶは質問をしかけたが、次いで月奈がカバンから取り出した文の束に目をパチクリとさせた。