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【鬼滅の刃】闇を照らして【煉獄杏寿郎】

第19章 前進と後退



「きょ、杏寿郎様…あの、羽織をお借りしてもいいでしょうか?」

木陰に隠れてしばらくすると弱々しい声が杏寿郎の名を呼んだ。何が起こったのか予想できた杏寿郎は羽織を差し出す、勿論木陰を覗くことはしない。

ーここで体が元に戻ったか。困った。

(ど、どうしよう。着物が破れないように咄嗟に脱いだけれど…)

隊服であれば上着と羽織で何とかなっただろうが、今は杏寿郎も着流しに羽織だけだ。

煉「家に戻るまであと少しの辛抱だ!何とかなりそうか?」

「着ていた着物と羽織で何とか…大丈夫そうです」

木陰から姿を現した月奈は下半身に着物を巻きつけ、上半身は羽織でどうにか隠している。杏寿郎は極力見ないように努めることを伝えて再度月奈を抱えると、先程よりも速度をあげて家へと急いだ。

ー夜の闇があるとはいえこの状態はまずい。鬼に出くわそうものならどうしようもない!

時刻は夜、鬼の活動時間だ。街であっても鬼は出る、油断は出来ない。

ー隊士に出くわしてもまずい状況だ!それに、この姿の月奈を長く抱えていることも出来ん!

杏寿郎とて男。恋人があられもない姿で目の前に居るこの状況は相当辛いものだろう。ましてや抱えて走らなければならないのだ。一刻でも早く部屋へと帰らねば、その一心で杏寿郎は走る速度を上げた。




煉「この時刻だと父上はもう眠っておられるだろう。千寿郎が起きているかもしれんな…」

家の門から入れば物音で千寿郎が玄関に出てくるかもしれない、そうすれば必然と月奈のこの姿を見せてしまうことになる。

「失礼になりますが裏手から塀を越えて部屋に直接入りましょう、千寿郎さんを起こすのは忍びないですから」

そう言った月奈は、杏寿郎が千寿郎を起こしてしまうことを案じていると思っているのだろう。確かにそれを案じていることも事実ではあるが、自身の姿が今どういう状況なのか失念しているのだろうかと杏寿郎は頭が痛くなる。

煉「あぁそうしよう!千寿郎といえども月奈のこの姿を晒すのは良くないからな」

「…それは確かに」

杏寿郎の言葉にハッとした月奈は己の状況を思い出したのだろう、少し身を縮こませて羽織の襟元を寄せ直す。それを確認した杏寿郎は裏手に回り塀を難なく超え、誰にも会うことなく部屋へと静かに戻った。
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