第19章 前進と後退
煉「何やら相談事のようだったが、清花と話して気持ちは落ち着いたか?」
「元々話したかったことは蒼樹のことでしたから、相談事については余談ですし…でも清花さんとお話出来て良かったです」
(ツケを払う事になるって聞いて思い出した。帰ったら釣書の返事を書く仕事が待っていることに…これが釣書を後回しにしたツケ?)
杏寿郎に抱えられながら月奈は部屋に残してきた釣書を思い出しゲンナリする。体が縮んだからといって、走れないわけではないのだが着物ということもあり抱えられることになってしまった月奈は前を向く杏寿郎の顔を眺める。
「急遽連れてきてくださってありがとうございました。お客様とはゆっくりお話しできたのですか?」
煉「あぁ、それは問題無い!訪ねて来たのは朝霧少年だ!」
突然飛び出した雅雄の名に月奈は驚く。直接的に訪ねてくることなど想像だにしなかったからだ。訪ねてくる理由が分からない。
煉「俺の進退についてまだ隊士間で伝達されていないようだ!宇髄同様に引退なのではないかと囁かれているようで、真相を聞きに来たということらしい」
(伝達されていない?何故かしら。ただ単に全隊士に伝達が回りきっていないだけとも考えられるけれど、様子見の決定がされた柱合会議から結構な時間が経っているわよね)
「何だかんだと言いながら、雅雄様も杏寿郎様のことを心配されていたのですね」
意外だとでも言いたげな表情で呟いた月奈に杏寿郎は苦笑した。なにせ先程同じことを考えて全く違う方向に裏切られたのだから。
煉「いや、そういうわけではないようだ。引退されると困るらしい、手合わせが出来なくなることのほうが気がかりだったようだ!」
「はい?手合わせ??そんなことを話しに来たのですか!?」
ーまさか月奈自身に関係しているとは微塵も思っていないようだな。本当に色恋沙汰に疎い娘だ。
呆れたような表情の月奈を横目に、月奈が疎いことで恋仲になるまでに様々な誤解が発生したことを思い出した杏寿郎は溜息を吐いた。それに気付いた月奈が首を傾げた途端、異変を感じて杏寿郎が走るのを止める。
ー月奈の体の大きさが変わった?
月奈も自身の異変に気付いたのだろう、慌てて下ろして貰うと木の陰に走って行って行った。