第19章 前進と後退
鬼の血鬼術にかかったから、と言えば普通の人間は馬鹿な事を、と笑うだろう。しかし、人間の背丈が突然縮むなど有り得ないことを目の当たりにしている清花がそんな風に笑い飛ばすことはないだろうと月奈は考えていた。
清「おに?…植木屋は鬼だったの?」
半信半疑の表情の清花に月奈は頷く。植木屋の蒼樹の件は片付いた、と伝わってはいたがどのようにこの件を終わらせたのかを説明するには〔鬼〕の存在を知ってもらうことが重要となる。
「そうです。そうは言っても、ときと屋に現れた蒼樹は鬼ではなく人間でした。それは間違いありません」
清「だとすると追い出したあの日以降に鬼になったということ?それは…」
煉「月奈への執着心が原因だろう。あの日ここから追い出したからではないぞ」
清花の表情が曇ったことで何を言わんとしたか、いくら気持ちの機微に疎くても察しは付く。追い出すと決めたのは清花だった、恐らく責任を感じているのだろう。杏寿郎はそれを強く否定した。
「それに、鬼になっていたからこそ私の手で終わらせられたのですからある意味では幸運だったかもしれないと思っています」
そう、鬼だからこそ首を切って始末を付けることが可能となった。人間だったならば復讐も始末も何も出来ない状況だっただろう。
清「…それで、植木屋にそんな姿にされたの?」
「これは別の鬼ですよ。蒼樹の時はケガをちょっと負っただけです」
煉「ちょっと、ではなかったがな。肩を一部分喰い千切られたのだからな!」
ケガについて誤魔化した月奈の言葉を遮るように杏寿郎が声を発した。そのやり取りの中で清花はクスリと笑う。
「清花さん、どうかしました?」
笑う場面だったかしら、と首を傾げる月奈にごめんねと謝って清花が耳打ちをした。それは杏寿郎には聞こえなかったが、月奈の顔が赤くなったことで何を言われたか大方予想が付いた。
清「あら、正解かな?やるわね藤葉ちゃん」
「う…間違ってはいないけれど、改めて聞かれると恥ずかしいですね」
じぃっと月奈を見つめていた清花は、突然杏寿郎を見ると衝撃の一言を放った。
清「この反応だとまだ生娘…?」
「なにを言ってるんですか清花さん!!?」
煉「月奈!大声を出すな」