第18章 任務
「役に立てたところで、早く元の体に戻って欲しいものです。背丈が縮むとこれ程に不便なんですね。しかもお手伝い禁止で休んでいろなんて…」
といいつつ飲み終わった湯呑みを手早く洗い始めた月奈に、千寿郎は「自然に体が動くのは分かりますが…」と苦笑して止めると杏寿郎がふと何かを思い出したように月奈の名を呼んだ。
煉「千寿郎、後を任せても良いか?月奈、少し話がある」
千「大丈夫です、夕餉の準備が整ったら声をお掛けします」
ついておいで、と杏寿郎は月奈に手招きをして廊下へと出て行った。話の内容に心当たりが無い月奈は不思議に思いながらも、千寿郎に手を振られ台所を後にする。向かった先は杏寿郎の部屋だ。
煉「月奈の任務中に届いていた清花からの文を渡しそびれていたことを思い出してな!後は…」
(清花さんの文と、もう一つ杏寿郎様の手にあるのは…何か見覚えがあるというか既視感というか)
「杏寿郎様、もう一方のそれはもしや…」
煉「釣書だ!」
「なんで!?」
(釣書は婚約者がいるということで全て断ったはず。それに噂を流す予定で…)
そう考えた月奈は一瞬で顔面蒼白になった。杏寿郎も苦笑している。婚約者という名目で断る話だった釣書は、文で全て返答することにしていた。身寄りのない月奈は蝶屋敷の住人として知られているようで、しのぶがすべての釣書を受け取っていたので返答の文についてもしのぶに預ける予定だった。
「…ちょ、ちょっと…待ってください。返書はしのぶさんに…」
煉「預ける前に花街の任務に行ったと記憶している!」
「そう、でしたっけ?」
ということは、丁寧に書いた返書は文机の引出に仕舞われたまま。蝶屋敷を退院してから何日経っているか考えて月奈は「ひぇっ」と小さく声を上げた。
「今頂いている釣書の返答とともに明日にでもしのぶさんにお願いしてきます!今から返書を…」
煉「釣書の件も早目に終わらせた方がいいだろう!だが、清花からの文も忘れてやるな」
(そうだった。そもそも、これが用件だったって言ってたんだった)
左手に持っていた文を開くと、流れる様な字で月奈を心配していると書かれている。