第18章 任務
後ろから手を伸ばし、戸棚から茶器を取り出し手渡した千寿郎に月奈は少し悔しそうな恥ずかしそうな表情をしながらもありがとうと言ってそれを受け取った。
煉「数日で元に戻るとはいえ、背丈が低いと日常で不便が続きそうだな」
「そうですねぇ、この背丈だと人に頼らなきゃいけない事が増えますし早く治って欲しいです」
茶器を眺めながら溜息を吐いた月奈に、千寿郎は苦笑する。突然背丈が縮んだとして、自分の今の生活にどれだけの支障をきたすのか想像が出来ない。
ー事実、今までは当たり前のように手が届いていた物に手が届かなくなることすら、事が起こるまで思い付かないものですね。
千「月奈さん、体が戻るまで色々と不便でしょうからお手伝いはしばらくお休みしては如何でしょうか?」
煉「働き者の月奈には苦痛やもしれないがな!そうと決まれば…」
月奈の手から茶器が浮き千寿郎の手に着地する。杏寿郎の手で移動された茶器を受け取り千寿郎はニコリと笑って頷いた。
千「俺がお茶を淹れますよ。ところで先程の父上とのお話のことですが…」
手持無沙汰になってしまった月奈は指を遊ばせながらも、先程の槇寿郎との会話を思い出す。二人がどこから聞いていたのか聞きそびれたので、何故あのような話になったのか初めから話し始めた。
「…はっきりと槇寿郎様から回答されたわけではありませんし、あくまで私の予測のお話です。けれど、少なからずお二人に目を向けてやれなかった後悔はありそうでした」
話が終わり千寿郎が入れてくれたお茶に手を伸ばす、冷める程長い話ではなかったためまだ温かい湯気が上がっている。喉に流し込めば温かさにホッと一息が口から漏れた。
「今回、血鬼術にかかったことで槇寿郎様の心中を意図せず暴いてしまいましたが、杏寿郎様も千寿郎さんも気にしていたことのようですから、これはこれで良かったのでしょうか」
(なんだか槇寿郎様には申し訳ないですが…)
二人の表情を見れば、これは悪い話では無かったと月奈は思う。槇寿郎に話した通り、二人は恨みなど持っていない。
(槇寿郎様にとっては奥様、二人にとってはお母君である方がそれだけ大きな存在だったということ)