第18章 任務
千「兄上。どうしてそのような所に?何をしていらっしゃるのですか?」
廊下に立ち尽くす杏寿郎に話しかけた千寿郎は、口に指を当てて手招きをした兄の元へと黙って近付いていく。杏寿郎が立っている場所まで来ると近くの部屋から月奈の声が聞こえてくる。
ー父上と月奈さんがお話しているのを聞き耳立てていた!?
千「兄上!お行儀が悪いですよ!?」
中の二人には聞こえないように千寿郎は声を小さくして咎めると、杏寿郎は驚きに目を見開く。
煉「違うぞ!よく聞いてみろ」
珍しく小声で否定した杏寿郎に対して驚きながらも、何が違うのか、と呆れる千寿郎。しかし千寿郎とて中の会話は確かに気になる。盗み聞きをする罪悪感はありつつ、千寿郎は耳を傾けると会話の内容に「まさか…」と呟いて兄を見上げた。杏寿郎は少し苦笑して頷く。
ー確かにこの話の中、自分たちが入っていくのは些か気が引けるなぁ。兄上がここで立ち尽くしていたのも頷ける。まさか父上がそのように考えていたとは…
煉「…俺達が父上を恨むなどと考えられるほどあの時のことを穏やかに思い出せるようになってきたのだな!確かに母上が亡くなって気落ちしていたが故、俺達に目を向けることは無かったが…」
千「だからといって父上を恨むなどありませんよ!」
そうだな、と杏寿郎が微笑んだ瞬間、千寿郎の背後で障子が開いた。出て来た月奈は、廊下で蹲る二人を見て目を見開いたがすぐに表情を戻し、槇寿郎に頭を下げてから居間を後にした。
「いつから廊下にいらっしゃったのですか?」
決して盗み聞くつもりではなかったと弁解をするために追いかけたはいいが、状況だけを見れば確実に盗み聞きなのだ。どう弁解するべきか悩んでいる間に台所へと入った月奈が二人に向き直り問いかけた。
二人はゴクリと唾を飲み込み視線を合わせている。しかし、どう話したものかと口を開くことを迷っているようだ。
「あぁ、別に怒っている訳ではありませんよ?どこから説明するべきかの確認をしたいだけです」
苦笑した月奈は戸棚から茶器を取り出そうと手を伸ばして気付く。この背丈では精一杯背伸びして引き戸を開けたとしても戸棚の中が見えないことに。
(う…こんなところで血鬼術の弊害が…)
千「えっと、茶器でしょうか?」