第18章 任務
「誰かに強要されて大人にならなければと考えた事はありませんよ。家族を殺した鬼は憎いですが、とうの昔に冨岡様の手で殺された以上恨み続けるのは無駄な労力だと思います。今はただ、鬼が居ない世、人間が安心して暮らせる世になるようにと任務に邁進しています」
(こんな血鬼術だけならいいけれど、人を傷付ける血鬼術の方が多い。それに鬼が人を喰らう以上は倒さないと人の平和は訪れない)
「幸いなことに私は煉獄家に拾って頂きました。鬼をただ恨み続けて死ぬこともなく、こうして笑って生きていられることは本当に幸せだと改めて思えるようになりました」
少し照れ臭そうにはにかんだ月奈の本心は、槇寿郎が考え及ばないものだった。
槇「…そうか。相手がいなければ恨むことすら出来んものだからな」
「相手がいないと、ですか?それはまぁ…鬼を倒す事で恨みはいくらか消化されると思います。恨み続けるにも気力が必要ですから、いずれは忘れるべきものです」
そうではない。と槇寿郎は首を振る。月奈は不思議そうな表情で槇寿郎が言わんとすることに耳を傾けた。
槇「鬼ではなく、両親に強要されたとは考えないのか?無理矢理大人にしてしまう状況を作り出したこと」
「両親のせい?まさか!そんな風に考えたことはありませんよ、私への教育は全て稀血である自分が大人になっても生きていけるようにという両親の気持ちですし。現にそれは今役立っています」
(どうしてそんなことを聞くのかしら…)
子が両親を恨むなど、余程の状況でしか有り得ないことだと月奈は思う。それを槇寿郎が改めて聞いてくる理由を考えていた月奈は一つの考えに至り槇寿郎を見つめる。
「まさか、奥様を亡くされた時の槇寿郎様のことを杏寿郎様達が恨んでいると?」
自嘲の笑みを浮かべた槇寿郎に、自分の考えが間違いではないことを悟る。思わず月奈は槇寿郎の手を握ると、槇寿郎は驚いて体を引いた。
槇「なん…」
「恨んでいるならば杏寿郎様も千寿郎さんもあのように育ってはいません!無理矢理大人にしたのではなく、切欠だったにすぎませんよ」
以前、しのぶと槇寿郎が対面した時に千寿郎が教えてくれた。瑠火が無くなったことで気力を失い柱を引退することになったと。その時の千寿郎の言葉に恨みなど一つも含まれていなかった。