第18章 任務
大人びた、いや大人にならざるを得なかったということだ。
稀血であることで自身の行動は制限されることも多かっただろう、現に夜の行動は控えるように両親から躾けられていたとこの家に来た頃に聞いているのだ。
ーその上に家族を鬼に殺され、たった一人でこの鬼が住む世に放り出された。子供は親や大人に守られて育つが、月奈にはそれがなかった。
槇寿郎は哀れとも言える境遇だった月奈が、今こうして笑って生きていることに安堵すると共に、妻を失った時を思い出す。自分は杏寿郎達を気にかけてやれるほどの余裕が無かったこと、その結果大人にならざるを得ない状況を作り出していたこと。
ー俺に恨み言一つ言ったことがないが、あの子たちも月奈と似たような境遇だな。
「槇寿郎様?私が血鬼術にかかったことに呆れられていますか?」
物思いにふけっていた槇寿郎が顔を上げると、先程まで居た千寿郎はいつの間にか居なくなり月奈だけが向かい合って座っている。
槇「あぁ、いやすまん。まだ月奈は齢十五の子供だったことを思い出してな、普段は随分と大人びていたと気付いただけだ」
「大人びて、ですか。うーん、いつまでも子供のままで居られたならばよかったですが、いつかは成長しなければいけないことです。それが早いか遅いかというのは分かりませんが、私は大人びるというよりもまだまだ背伸びしているだけですよ」
子供では守られるばかりになりますから。と苦笑した月奈に槇寿郎は目を見張る。鬼殺隊に入りたいと言った頃から大人になろうとしていたのだろう、子供の精神では鬼殺隊になど入れないと分かっていたのだ。
槇「守られるよりも守りたい、と言っていたな。確かに子供は当然守られる物であって、誰かを守る力は無い」
「鬼殺隊に入る切欠は即ち、成長の切欠だったと思います。子供から大人になるための、とでも言いましょうか」
槇「そうか…子供から大人になる切欠と捉えるか。子供というのは考えが柔軟だな。無理矢理大人にならざるを得なかったとは考えないのか?月奈が一人になる切欠を作り出した鬼を恨まないのか?」
槇寿郎の質問に目を見開いた月奈は、当然のことを聞かないで欲しいとでも言いたげに微笑みを返した。