第18章 任務
女人の衣装について疎い杏寿郎でも一つ分かるのは、160cmの背丈の月奈が着ていた着物は間違いなく着れないということだ。
千「月奈さん自身が大丈夫というならそうなのでしょうね。では、俺は昼餉の準備に戻ります」
よろしく頼む、と千寿郎の頭を撫でた杏寿郎は月奈の部屋へと足を向けた。
煉「月奈、着替えは終わったか?着丈が合わないならば胡蝶からでも着物を借りることもできそうだが…月奈?」
声を掛けた部屋からの応答はなく、しんと静まり返っている。杏寿郎は首を傾げながらも、障子に手を掛け静かに開いた。そこには着替えを終えた月奈が寝息を立てて畳に横たわっている姿があった。どうやら着替えるまでは意識があったのだろう、畳みかけの隊服を掴んだまま眠っている。
煉「よくよく考えれば、数日の任務から戻ったばかりだったな」
苦笑した杏寿郎は押し入れから布団を出して整えてやる。そこに寝かせてやると、少し身じろぎをしたが再び寝息を立て眠りについた。
剣士も野宿をすることはあるが、主には藤の家か宿を取る場合が多い。それとは違い、隠は事後処理の他に情報収集も行うので隊士の中でも野宿が必然と多くなる。いくら慣れているとは言え、鬼が出ると言われる箇所で野宿という危険を冒しているのだ、気が休まる時間は無いに等しい。
ーやはり、生家から持ち帰った着物は幼少の頃の物だったか。何か思い入れがあるものなのだろうか。
衣紋掛けの横にはたとうしが広げられている。中身は無く、見たことのない着物を着ている月奈を見れば、生家から持ち帰ったものだと分かる。今はもう着られない着物を持ち帰る理由があったのだ。
ーまさかそれが役立つとは、さすがに月奈自身も予想していなかっただろうな。
穏やかに眠る月奈に布団を掛けなおし杏寿郎は部屋を出る。昼餉の準備が終わる頃だろう、千寿郎に月奈の昼餉は残しておくように伝えねば。
「すみませーん!!!」
バタバタと廊下を走る足音に驚き顔を上げたのは槇寿郎だ。声から月奈だとは分かるが、廊下を走るなど珍しい行動に眉を顰める。
槇「…随分騒々しいな?」
千「あ、お目覚めになられたんですね月奈さん」
「眠りこけてしまってこんな時刻に!すみません!」