第17章 生家
鬼殺隊はあくまで政府非公認の組織だ、知っている人間は珍しい。その上、両親が話したとはいえ稀血をすんなりと受け入れていることも気になった杏寿郎は不思議に思う。
ー鬼を信じない世の中になりつつあるというのに、何故この御人はすんなりと受け入れているんだ?
「杏寿郎様、鬼狩りという言葉を私に教えて下さったのは父様でした。その父様に教えたのは長谷師範なのです、何故知っているのかは私も存じ上げませんが」
師「なに、珍しい話じゃないさ。藤の花の家紋の家の主人と交流があってね。鬼殺隊の話を聞いていたんだよ」
穏やかに微笑む長谷に、なるほどと頷いた杏寿郎は警戒心を解く。帯刀を良しとされない世で刀を持っている人物である杏寿郎に警戒していたのは長谷も同じだった。刀の置かれた位置が警戒を物語っていた。
煉「失礼しました長谷殿。どうかお許し頂きたい」
刀を左から右に置き換えた杏寿郎は頭を下げる。その行動に月奈は驚き、長谷を見る。
師「いや、組織に詳しければ警戒して当然のことだろう。頭を上げてくれ。私はただの老爺にすぎんのだ」
「あの、長谷師範はどうして今日はここにおいでになられたのですか?」
師「藤の花のとこの主人が教えてくれたんだよ、月奈ではないかと」
それを聞いてここに来たら門が開いていた、ということだったようだ。長谷が孫自慢のように藤の花の家紋の家の主人に月奈のことを話していたようで、杏寿郎が呼んだ名前で分かったのだろう。
煉「よもや、そこまで判断をされるとは!さすがは月奈の師だな!」
「本当ですね杏寿郎様!さすがは長谷師範です!」
師「ところで、煉獄君といったかな。君のその左目は鬼殺隊に入ってから失ったものかい?」
嬉しそうに賞賛していた二人は、長谷の質問にピタリと動きを止めた。杏寿郎はすぐさま頷くと長谷に向き直る。
煉「自身の鍛錬不足による負傷です。鬼との戦闘で潰されてしまいました」
乗客全員と引き換えの代償だと言わない所が杏寿郎らしい。しかし決して鍛錬不足などではないことを知っている月奈は口を開こうとしたが、杏寿郎の視線に制される。
師「月奈君も鬼殺隊に入ったのかい?肩の傷は酷そうだね、体に傷を作るのは私は勿論、ご両親も喜ばないよ」
(さすが、気付かれていたのね)