第17章 生家
故人を偲ぶ為、思い出のよりどころとする為に形見は必要だ。しかし持ち過ぎれば、故人をこの世に引き留めてしまう物になると聞いたことがあった。
幼い頃の杏寿郎は形見の意味も分からず、残っているのは心に刻んだ母の言葉だけ。父が遺品を残してくれているのかすら気にしたことがなかった。
(着物をみつめたまま動かなくなってしまったわ。どうしようかしら)
「あの、杏寿郎様?…ここでお休みになっていてくださいね」
手を引いて部屋に招くと、まだ考え事から意識が戻って来ない様子でぼんやりとした杏寿郎を座らせる。少し心配ではあるが、日が暮れる前には煉獄家に到着したい月奈は形見の回収を優先しなければいけない。
(次、いつここに来られるかも分からない。その前に取り壊しになれば二度と形見を持てなくなる)
両親の部屋の整理が終わり、弟の月哉の部屋で整理を始めた矢先に玄関から物音がして月奈は驚いて手を止める。この家は人里から少し離れている、ましてや惨劇があったことが付近の町には噂としてでも広まっているだろう。そんな場所に人が来るとは考え辛い。
(杏寿郎様が玄関に行かれたのかしら?)
月哉の部屋から玄関に向かう途中で、自分の部屋に居たはずの杏寿郎の姿が無いことを確認した月奈は安心した。
きっと玄関に向かった杏寿郎が立てた物音だったのだと。
「杏寿郎様、何かありましたか…え?」
男「月奈君、元気そうで何よりだ」
玄関で立っていた杏寿郎の体で隠れていた人物に月奈は目を見開く。好々爺然とした男性は月奈の姿を見て優しい笑顔を浮かべた。
「長谷〔はせ〕師範!?」
師「なるほど、大変だったね月奈君。して、こちらは?」
「鬼殺隊の煉獄杏寿郎様です。私を助けてくださった上、今もお世話になっています」
とりあえず、と居間に入って貰い、簡潔ではあるがここを去るまでの話を長谷に説明している月奈の横には杏寿郎が座っている。
師「鬼殺隊…鬼狩りの組織だね?」
煉「ご存知でしたか!貴殿はもしや月奈の体術の師でしょうか?」
師「そうだね、体術を教えたのは私だ。稀血だから、とこの子の両親が頼み込んで来てね」
煉「なるほど!稀血であることも承知でしたか」