第16章 回復
煉「うむ!急な話だったのにすまないな、ご主人!」
すっかり日も沈み、空気が冷え始めた時間。二人並んで歩く廊下からは空に浮かぶ月が綺麗に見える。
「てっきり煉獄家に戻るのかと思いましたが今夜はここに泊まるのですね」
(もう一度温泉に行きたいけれど…鬼が出る時間になってしまったわね)
煉「あぁ、家に戻ったら君は家事を手伝いそうでな!退院したからといって健康ではないんだ、一日ぐらいゆっくり休んで欲しい。父上も千寿郎も同意見だったぞ」
「蝶屋敷で十分休ませて頂きましたよ?」
煉「気を遣わずに休みなさい、と父上からの言伝だ。蝶屋敷でもなにやら手伝いが出来ないかと動き回っていたようだからな!」
「う"っ。…な、何のお話でしょうか?」
煉「俺の思い人は随分と気遣い屋だと胡蝶も気にしていたぞ!君も重症だというのに困ったものだ」
(しのぶさんから筒抜けですか…)
杏寿郎の視線に全て知られていると感じた月奈は潔く降参し謝る。その行動に杏寿郎は満足そうに頷くと、月奈の頬を優しく撫でる。
煉「冷えてしまったな!せっかくだ、もう一度温泉に行こうか」
「ですがもう夜も遅いですよ?それに山を歩くので鬼が…」
心配ない、と杏寿郎が腰に差した日輪刀に手を滑らせる。そういえば、と月奈は今日が柱合会議だったことを思い出す。
(自分の事ばかりで抜け落ちてた!杏寿郎様と天元様はどうなったのかしら)
まだ少し話したい。月奈はそう思ったが、もう一度混浴に、ということは避けたかった。
(でも廊下では体が冷えるわ。それに鬼が出た時に何も身にまとっていないのはさすがに…あ!)
ふとあることを思いついた月奈は顔を上げると、杏寿郎の手を取り微笑んだ。
「もう一度温泉に行きましょう!このままでは風邪をひいてしまいそうですから。話したい事や聞きたいことがまだありますし」
煉「うむ!承知した!では行こうか」
今日は貸切で混浴と知らなかった先程とは違って嫌がるだろうと予想していた杏寿郎は、月奈の行動に少し戸惑った。しかし、行こうと言われ手を引かれれば付いていく。これ以上体を冷やすのも憚られる。
ー温まったらすぐにでもこちらに戻って来よう。いくら退院したとはいえ万全ではない今、無理をさせればまた発熱するだろう。