第16章 回復
「あ…カバン」
シャツを着る前に傷の保護をしようと思ったが、カバンがない。杏寿郎が持ったままであることに気付いた月奈は壁の向こうに声をかける。
煉「カバンか!確かに俺が持っているな、うっかりしていた!入口に置いておくぞ」
外に出て行く音が聞こえ、しばらくすると「置いたぞ!」と脱衣場に戻った杏寿郎が声を掛けてきた。
(傷だらけね私の体は。我ながら、女としてどうかと思ってしまうわ)
脱衣所に設置された姿見の前に立てば、一糸まとわぬ体がはっきりと映し出される。鍛錬を行っている結果の均整の取れた体、胸は小振りだがその胸には大きな傷がある。
「ん?胸の傷少し薄くなったかも?」
鬼殺隊に入る前に鬼により裂かれたこの傷はそれほど深くは無かった。綺麗に消えることは無いと言われていたが、薄くはなるんだ、と月奈は少し嬉しくなる。
煉「む?随分と機嫌が良いな!?そんなに温泉が良かったか?」
勢いよく扉を開けると、外には杏寿郎が既に待機しており嬉しそうな月奈に笑顔を向けてきた。
「杏寿郎様!傷が!傷跡が薄くなっていました!」
煉「よもや!本当か!?それは喜ばしいことだな!」
「はい!胸の傷が薄くなっていることに先程気付いたのです!これで少しは見られても気分を害しない体になるでしょうか」
煉「うむ、そうか!…む?それはどういう意味だ?」
「はい?言葉通りですよ?せっかくの温泉なのに杏寿郎様の気分を害したのではないかと気が気ではありませんでした」
気にするのはそこなのか?と杏寿郎は首を傾げる。肌を見ないようにしているとしのぶの前で言っておいて温泉で混浴したことについては言及されていない。
ーそれほどまでに傷のことが気になっている、ということか。
下心が全く無かったわけではないが、月奈の肩の傷をしっかりと見る機会だと思ったから貸切にしたのだ。見たところ、抉られた深さが予想よりも浅く杏寿郎は安心していた。
煉「元々傷の具合を見たかったからな、そんなことで気分を害することなどありえん!」
温泉に浸かった後は、用意された食事を堪能する。煉獄家では千寿郎とともに食事を用意している月奈だが、上げ膳据え膳にすっかり慣れてしまった。
男「鬼狩り様、寝所の準備が出来ておりますので、今夜はゆっくりお過ごしくださいませ」