第16章 回復
「それよりも?」
言いかけて空を仰いだ杏寿郎に、月奈は先を促すように問いかける。
煉「それよりも、君が他の男にふれられることの方が気になるな!」
「へ?…あぁ、善逸様のことですか?あれは転びかけた私を受け止めただけとお話したと思いますが」
煉「うむ!そう聞いたな!猪頭少年についても話を聞けば、仲間としての行動だったと言っていた!」
(伊之助様の行動…?)
何かあったかしら?と首を傾げる月奈の肩を抱きよせた杏寿郎の表情は少し悲しそうで不安になる。いつもなら悋気から少し怒っているような表情をしているはずだ。
「…杏寿郎様。最近そのような表情をなさいますね、何かありましたか?」
煉「表情?どのような表情だろうか!」
「え?えぇっと…」
具体的には言い表しづらい。なにせ本人の心中が表情となっているのだ。
「強いて言うならば、悲しそうな…寂しそうな?不安そうな?ん~、とにかく心配してしまうような表情をしています。ですので、何かあったのかと思ったのですが」
そう言われて、杏寿郎は「なるほど」と空を仰いだまま苦笑する。どうやら表情の原因に気付いたようだ。
煉「ここ最近少し考え事があってな、それが表情に出ているのかもしれんな!気を遣わせてすまない!」
「考え事…ですか。私に出来ることがあれば、お話しくださいね?」
杏寿郎が視線を合わせると月奈はふわりと微笑む。本人が話したくないことならば聞く気はないし、踏み込むつもりもないのだろう。
煉「…そうだな、その時は話を聞いてくれ!」
ー不安、寂しさを見透かされるとは不甲斐なし!
脱衣所で着替えをしながら杏寿郎は自分に呵責する。弟と然程変わらない齢の少年少女に悋気を抱いたり、離れていくのではないかという不安を抱くなど精進が足りてないのではないかと。
煉「しかし、どうしたものか分からんな!」
気持ちの原因が分かったところで対処法が思いつく訳ではない。結局のところ、全てを手に入れたと自分が感じなければ抱え続ける気持ちなのだ。
「!?やっぱり様子がおかしいわ杏寿郎様…」
壁を隔てた向こう側から聞こえた杏寿郎の声に月奈は首を傾げる。
(結局、あの表情の意味を教えては貰えなかったのよね。何が不安の種になっているのかしら)