第16章 回復
きっと肩のケガにも良いだろう!と杏寿郎が微笑むと、ほわりと月奈の心が温かくなる。わざわざ自分の為に連れてきてくれたことが素直に嬉しい。早速入りましょう!と月奈が笑顔で小屋の扉を開いた。
「あの…えぇと…杏寿郎様?これは一体…」
煉「む?何か問題があるか?」
(いや、この状況が既に問題というか…)
月奈は温泉に膝を抱えて端っこに浸かっていた。横には何故か杏寿郎が居る。濁り湯の温泉なので体は見えていないことが救いだが何故こんなことになっているのか大混乱は当然だ。
「ここは混浴だったのですか?脱衣所が分かれていたのでてっきり別だと思っていたのですが」
煉「温泉は一つだ!普段は主人の采配で男・女・混浴を入れ替えていると聞いた!ちなみに今日は貸切で頼んであるからゆっくり入ると良い」
湯から出ている月奈の肩には、まだ塞がったばかりの傷がある。この抉り傷は表面が滑らかに治ることはないだろうが、ただの気休めとしても杏寿郎はこの湯に浸からせたかったのだ。
杏寿郎はザバリと湯を手で掬うと、月奈の肩にかけてやる。秋から冬に向かっている今の時期の外気は少し冷たい、特に露天風呂のこの温泉では体はすぐに冷えてしまう。
「まさか一緒に入るとは…こんなことなら夜に来る方が良かったと思いました」
煉「何故だ?夜だと景色は何も見えんぞ!」
(暗ければケガも見えにくい。現に肩の傷を杏寿郎様は気にされてるし、濁り湯とはいえ背中や胸の傷も完全に見えないというわけではないもの)
「香を焚く器具や行灯が揃っている所を見ると、夜に浸かりに来る方もいらっしゃるようですし何も見えないわけではなさそうですよ?」
脱衣場から岩に囲まれた湯舟まで石畳が綺麗に敷かれ、小さな行灯が湯舟までの道案内のように両脇にいくつも置かれている。湯舟の近くには香炉や香木が設置されていていつでも焚けるようになっているので、夜に来る人も居るのだろうと月奈は思ったのだ。
(あれ、そうすると結局明るいということよね。やはり一緒に入ることが問題だわ)
膝を抱えたまま「うーん」と唸ると、頭をポンポンと軽く叩かれ月奈は杏寿郎に顔を向ける。
煉「傷があろうが無かろうが、月奈の何かが変わることはないだろう!俺にとっては、それよりも…」