第16章 回復
「中に縫い付けてある紐で分かったんだと思います。杏寿郎様に贈った髪紐と同じものをお守り替わりにカバンに縫い付けたんです」
あら。としのぶは少し恥ずかしそうに笑って荷物を詰める月奈を見つめる。なんだかんだと仲良くやっていることにしのぶは嬉しいような寂しいような気持ちになった。
ー月奈が幸せであることは良いことだけれど、私の元から巣立っていくのも寂しいものですね。それだけ大人に成長しているということで喜ばしいことなのでしょうけれども。
「しのぶさん、お世話になりました。次はお手伝い要員で参りますね!患者としてここに来てるばかりなので、今度こそは!」
また来ると笑顔で約束する月奈に、しのぶは頷く。
し「その時はよろしくお願いしますね」
そう言って微笑んだしのぶは、自身より背丈の高い月奈の頭を撫でてやる。年齢でいえばしのぶが上、姉のようなものだ。撫でられた月奈はニコリと笑って杏寿郎とともに蝶屋敷を後にしたのだった。
「杏寿郎様、家に戻るなら逆の道では?」
いつもとは違う方向へ足を進めていく杏寿郎に月奈は不思議に思いつつ付いていくと、一軒の家の前に到着した。門扉には大きな藤の花が描かれている。
「藤の花のお屋敷?こんなところにもあるんですね!」
周りを見渡すが、木々が広がる山の中の風景のみが広がっている。頂上までは行かないが、人里から少し上った中腹辺りだろうか。
男「ようこそ鬼狩り様。ご連絡頂いておりましたので既に準備は出来ております」
門が開くと、人の好さそうな男が姿を現した。齢は三十くらいだろうか、穏やかな表情で頭を下げる。
煉「うむ!よろしく頼むぞご主人!早速だが向かっても良いだろうか?」
勿論です、と頷いた主人は手に持っていた風呂敷包みを杏寿郎に渡すと「ゆっくりとお過ごしください」と見送ってくれた。
「???」
訳が分からないままの月奈を余所に杏寿郎はまた山の中に向かって歩き出したので、慌ててついていくと数分程歩いた先に小屋が見えてきた。その小屋に隠れてはいるが奥には湯気が立ち昇っているのが分かる。
「温泉?」
煉「この藤の屋敷が所有する山に湧く温泉だ!万病に効くと言われていてな、任務でケガをした隊士が利用することが多いぞ。俺も何度か利用したことがある!」