第16章 回復
し「今ほど傷口を保護しましたので、お湯に浸かるのは帰ってからにしてください。湯殿で体を拭いて着替えてくださいね」
そう言って渡された手拭いをお湯で濡らし、先程の鍛錬で汗をかいた体を拭くと体の不快感も一緒に拭われていく。
「はぁ、気持ちいい」
本当はすぐそこにある湯舟に入りたいが、ぐっとこらえて手を動した。全身を拭い終わった月奈は、脱衣所の籠に入っている隊服に腕を通す。
「血が落ちてる…誰かが洗ってくれたんだ。有難いなぁ」
蝶屋敷の人達は隊士の為、昼夜問わず働いている。そうやって夜間任務に就いている隊士の手助けをしているのだ。縁の下の力持ちとはこういう事なのだろう。
し「煉獄さん。月奈の肩の傷の治療に必要な物をお渡ししてもよろしいですか?持ち帰るのが面倒であれば隠の方にお願いしますが…」
煉「問題無い!俺が持ち帰ろう!」
消毒薬や化膿止め、ガーゼ等の治療用品一式となれば、少し大きめの荷物になる。持ちやすいように大きめの巾着袋に入れられたものを受け取ると、しのぶはもう一つカバンを差し出した。
煉「隠のカバンだな!月奈も任務に出る時に背負っていたカバンだ」
し「えぇ、そうです。遊廓のある一部屋に落ちていた物を事後処理に当たった隠の方が見つけたと蝶屋敷に置いて行かれました」
煉「遊郭の部屋…なるほど。月奈のカバンだ!受け取っておこう!」
持ち主が分かるものを探そうとカバンを開いた所で、杏寿郎は月奈のカバンとすぐに分かってしまった。しのぶは、杏寿郎の確信した物言いに首を傾げた。月奈が部屋に戻ってくると荷物を持つ杏寿郎に駆け寄る。
「申し訳ありません!荷物は隠である私が持ちますからお渡しください!」
煉「気にするな、肩に傷があっては背負えないだろう!このカバンに治療品一式を入れてもいいだろうか!」
「勿論です!…あれ?私のカバンは任務先で置いてきてしまったはずですが…それは?」
し「煉獄さん曰く月奈のカバンと仰っていますよ?遊郭の部屋に置かれていた物だそうです、事後処理中に発見した物と聞いています」
杏寿郎は月奈にカバンを渡す前に、しのぶに中を見せた。その動作を見た月奈は、あぁ!と何かに気付いてしのぶに耳打ちをする。