第16章 回復
恐るべき速さで手が湯呑みの上を行き来している、「全集中常中」による身体能力の向上を行うことにより出来ていることだと善逸が隣に座り説明してくれる。
「呼吸が扱える剣士には必須なのですね、その全集中常中というものは」
善「まぁ、俺はすぐに会得したけれどね!ねぇ月奈ちゃん、訓練見ててもつまらないでしょ?お庭にでもお散歩行かない!?」
炭「善逸!そうやってまた訓練から逃げるのは駄目だぞ!まったく」
順番にやっているのだろう、先ほどまで近くで腕立て伏せをしていた伊之助が先ほどまで炭治郎が座っていた場所にいる。汗を拭いながら善逸を窘める炭治郎に月奈は「また?」と首を傾げる。
炭「那田蜘蛛山の後の機能回復訓練でしばらく訓練から逃げていたんだ。訓練も無しに全集中常中もすぐには会得できるものではないよ」
「あぁ、なるほど…」
善「え!なんで言っちゃうの炭治郎ぉぉぉぉ!?月奈ちゃんに今言う必要あった!?酷くない!?月奈ちゃんもそんな目で見ないで、やめてぇぇ!」
善逸の口から出る話は話半分で聞くべきかしら、と考えながら見ていただけだが、どうやら見て欲しくない目で見ていたらしい。月奈は「ごめんなさい」と言って苦笑すると、涙と鼻水を垂らしながら月奈の入院着の裾を握って来る善逸。
炭「善逸の事は放っておいて…月奈は肩の傷の具合はどう?」
ひどいよぉぉ!と言いながらも裾を離す様子はない善逸を尻目に、月奈は炭治郎に視線を向け直す。
「傷口は塞がりました。こうやって腕を固定するなら多少体を動かしてもいいってしのぶさんから許可が下りました!」
伊「おい月奈!紋逸邪魔じゃねぇのか?お前の番だぞ紋逸!」
善「うるせぇ猪頭!!俺は月奈ちゃんとお庭で散歩するんだ!もう今日は鍛錬お終い!行こう月奈ちゃん」
「わわっ!ちょっと善逸様!!?」
掴まれていた裾を引っ張られ、善逸についていくしかない月奈は転びそうになりつつ足を動かす。背後からは炭治郎や伊之助が追ってくる足音が聞こえる。
「善逸様!ころっ…転ぶ!走らないでください!」
ベッド生活の影響か、足の筋力が落ちているのか動きが悪い月奈。案の定、叫んだ矢先につんのめり振り向いた善逸に受け止められた。