第15章 覚悟の始末方
「杏寿郎様がそう言ってくださる限り、私は傍にいられます」
煉「こんな言葉で良いならばいくらでも言ってやる。だが、傍に居たいと月奈が思ってくれなければ意味は無い!」
ー言わずとも離れさせるつもりもないが、いつも月奈がどこかに行ってしまいそうな不安が俺の中から消えないのは何故だろうか。
「そんな顔してどうされたのですか?私は杏寿郎様が傍に望んでくださる限り、いつでも傍にいると約束しますよ。勿論忘れません」
そう言われ、杏寿郎はハッと月奈を見ると、眉間にギュッと皺を寄せて険しい表情をして見せた後に苦笑される。ケガのせいで動かせない左手では杏寿郎に触れられないのだろう。
煉「よもや、そんなに険しい顔をしていたか?すまん」
「表情が怖かったですよ、というのは冗談ですが。私の事でそのような表情をさせていたのなら心苦しいと思います」
眉間の皺を伸ばすようにさすった杏寿郎は、自分の考えに耽ったことで心配をかけてしまったことに気付いて再び謝る。
長く話していたせいか、ウトウトとした月奈の瞼がゆっくりと閉じられていくと少し経って穏やかな寝息を立て始めた。
煉「…見抜かれてしまったか。不甲斐なし」
ケガも痛むだろうに、目の前で眠る少女は蒼樹とのことを話すことで精一杯杏寿郎に向き合い、過去の清算を出来たことを教えてくれた。月奈の一部を持って地獄に堕ちていった蒼樹に、少し羨ましくも憎く感じる。二度と忘れることは無い記憶となって月奈の中に刻み込まれただろう。
記憶というのは、時間が経てば美化される部分が多い。辛いことを覚え続けることは無い。人間の本能なのか、生体機能というものなのかいずれ思い出として処理されていくと聞いたことがある。
ー記憶を憎み続けることはして欲しくないが、幼い頃の蒼樹との思い出が残されることも不服と感じる俺はどうしようもない程狭量な人間だな。
自分で自分に呆れ溜息を吐いた杏寿郎は、外の日が傾き始めた事に気付き、眠る月奈の頭を撫でると布団をかけ直して部屋を出た。
煉「胡蝶!月奈が眠った。俺はこれで帰るとする」
玄関に向かうと、しのぶが一室から出てくる姿を見つけ声をかける。振り返ったしのぶの隣にいるアオイは杏寿郎に頭を下げた。
煉「神崎少女もいたのか!」