第15章 覚悟の始末方
月奈は遊郭で再会した植木屋、蒼樹についてゆっくりと話し出した。自分の心を整理するように、ゆっくりと。杏寿郎は傍らに座ったままじっと耳を傾けている。
鬼とはいえ、見知った人物の首を切ったことは忘れられない記憶となった。そして、灰のようになって散っていく蒼樹の姿もまた忘れられないものになった。
「昔の蒼樹を思い出せば悪い人ではなかったと分かるのです。それだけが自分の中に残っていたのなら、蒼樹の後を追ったのかもしれません」
(だけど、それは出来なかった。今の私は簡単に生を手放すことが出来ない理由がある)
煉「今ここに居るということは、俺との約束を忘れなかったのだな」
「私は杏寿郎様とは違って約束を忘れませんよ」
ふふふと目を閉じたまま笑う月奈に、杏寿郎は「それを言われると困るな!」と苦笑する。
手を伸ばせば、優しく包んでくれる杏寿郎の大きな手。初めて鬼を切った時のことを忘れられないのは、皆が同じなのかそれとも見知った人物だったからなのか。
「…蒼樹に忘れないでと言われました。初めて切った鬼が蒼樹だなんて忘れられるはずがないのに」
この記憶と気持ちを抱えたままこれからを生きていくのだ。
独りではきっと耐えられないだろう、だけど自分には杏寿郎がいる。
(甘える、分かち合う。それをこの人はきっと受け入れてくれる…)
「杏寿郎様、それでも私を傍に置いてくださいますか?甘えても良いのでしょうか」
煉「昔の記憶は誰にも変えられないものだ。人間ならば、忘れることができない記憶や思い出の一つや二つあるだろう。月奈の血肉の一部を喰い、消えない記憶を植え付けたあの男を許すことはないが…」
血が通う小さな月奈の手を握る力を強めると、柔らかく握り返される。
煉「生きているこれからの月奈を俺の物にできるなら、過去など些末なことだ」
「とうに私は杏寿郎様の物になっているというのに、おかしなことを仰るのですね」
不思議です、と言いたげな表情で杏寿郎を見つめる月奈は純粋な気持ちで発言したということが分かる。杏寿郎の中で燻る悋気や欲に気付いていないのだろう。
ーまだまだ月奈は俺の物ではない。しかし齢を考えれば全てを欲のまま求める訳にはいかない。
煉「俺の物だと言ってくれるならば、傍にいてくれ」