第15章 覚悟の始末方
蒼「月奈お嬢さん」
名を呼ばれ目を開くと部屋の中で座っていることに気付いた。部屋を見回すと、障子の向こうに人影が写っている。
「蒼樹!こんにちは!」
障子を開いた先には、植木屋の父親を手伝う蒼樹の姿があった。月奈は縁側から元気よく挨拶をすると、振り向いた蒼樹が笑顔で手を振ってくれる。
毎月庭の手入れにやってくる植木屋の息子、月奈は二歳年上の蒼樹をまるで兄のように慕っていた。幼い月奈はいつも手入れを始める前に声を掛けてくれる蒼樹に付いて回っていた。
母「月奈、蒼樹君のお手伝いの邪魔をしてはいけませんよ」
母に窘められ縁側で庭を見て、お手伝いが終わるのを待っている月奈に蒼樹が度々手を振ってくれる。母がお茶を縁側に持ってきたら庭の手入れが終了する合図だった。
(幼い自分の幸せな記憶。慕っていた頃の記憶だ)
無邪気にお菓子を頬張って笑っている、まだ何も起きていない頃の自分。それは今の自分からすればとても眩しくて幸せな頃だった。
(このまま何も起こらなければ…ずっと幸せだったのに)
し「大分熱が上がっているようです。これでは月奈から話を聞くことは難しいですね」
煉「そのようだな!傷の影響か?」
頷いたしのぶに、天元は溜息をつく。それもそうだろう、肩の肉を抉られた状態で蝶屋敷まで自力で戻ったことが不思議なくらいだ。
宇「仕方ねぇな。このまま入院だろ?俺達も一旦家に帰る、柱合会議までに回復しねぇと」
し「そうですね、煉獄さんも完治間近とはいえ無理は禁物です。柱合会議は明後日ですから、宇髄さんも少しでも回復をお願いします。月奈はこのまま蝶屋敷で治療にあたりますので、月奈の回復状況によってまた話し合いを行いましょう」
そうと決まれば、と天元と嫁三人は屋敷へと戻って行った。本来であれば天元も腕と目を失うという重症なのだが、当人は屋敷でゆっくり過ごしたいといって聞かなかった。ならば、と主に雛鶴に対して毎日の患部の消毒や感染症等の危険を伝えてある。嫁達が行ってくれたという月奈の肩の応急手当の様子を見る限り、天元の世話は心配ないだろう。しかし月奈についてはそういうわけには行かない。