第15章 覚悟の始末方
「う…気付きますかね?」
肩からの出血は未だ続いているのだ、普通の人間でも気付くだろう。しかしながら、出血量の割に隊服から染み出す血は少なく感じる。隊服が黒色ということもあり、一目では出血していると見えない。支給されたときに受けた説明を思い出して、なんとか隠せるかと考える。
(確か、濡れにくく破れにくい特殊な隊服と聞いたわ。染みてきてはいるけれど…蝶屋敷に行ってから煉獄家に帰ろう)
炭「俺は鼻が良いということもあるけれど、普通の人でも気付くんじゃないか?とにかく早く治療した方がいいと思う」
「音柱様にお話しをしてから蝶屋敷に向かいましょう。炭治郎様も重症ですね」
炭治郎が驚くのを余所に月奈は空を仰いで鴉を探している。隊士が数人任務に就いているからだろう、数羽の鴉が空を旋回し命を受けるのを待っている。
(自分に鴉は付いていないけれど、誰かの鴉を借りることが出来れば…)
ふと、月奈は一羽の鴉に目を惹かれた。何の特徴もない鴉、けれど分かる。
「おいで、要〔かなめ〕…お願いを聞いて」
一度だけその名を呼んだことを覚えていた。自分の鴉であれば、名を呼ぶより先に主の元へ降り立つもの、普段は名を呼ばない。
ふわりと腕に降り立つ鴉は杏寿郎の鴉だ。隠に特定の鴉は付けられていない、団体行動が基本で宿舎も存在しているからだと聞いた。
炭「要…月奈の鎹鴉?」
「いいえ、私は隠ですから鴉はいません。…この傷のことは伝えずに、植木屋が鬼化していたことと滅殺が完了したことだけ伝えて欲しい、お願いします」
黒く濡れた瞳を見つめると、何かを感じ取ったのか鴉は翼を広げて飛び立っていった。夜明けの頃には杏寿郎の元に言伝が届くだろう。
「さて隠の仕事をしなきゃ、ですね!もうすぐ夜明けです」
顔布と頭巾はどこかに置いてきたのか、見当たらないので素顔を晒したままだが、任務を放棄するわけにはいかない。
事後処理にあたった月奈は花街の損壊具合を目の当たりにしケガ人の治療で愕然とする。