第15章 覚悟の始末方
「ぅ…」
頬にヒヤリとした何かが触れ月奈は意識を取り戻す。
瞼が重い、薄く開いた目に映るのは人影が一つ。ぐらぐらと揺れる頭のせいなのか視点が合わず人影の顔がぼやけて見えない。
(任務中に気絶した…?いつから?)
指先一つ動かせない中、自分の置かれている状況を考える。天元と合流したことは覚えている、そこから上弦の陸と戦闘が始まり怪我人を救援していたこと。そこまでは確かに記憶がある、ということは気絶したのはその後だ。
(怪我人を手当てしていた時に…何か…)
月奈お嬢さん
聞き覚えのある声に月奈は顔が見えない人影が誰なのか分かった。
「ど…して…ここに…」
男「気が付かれましたか。ケガをしていた僕を助けて下さったのですよ」
(ケガ…そうだ。けれどそのケガが見当たらない…?)
「植木屋…貴方…」
力が上手く入らない体を叱咤して起こすと、隊服の上から鮮やかな打掛を掛けられていることに気付く。どこかの遊女の物だろうか、見渡せばどうやら遊郭の一室に寝かせられていたようだ。
男「昔のように名前で呼んでください、お忘れですか?」
月奈を見つめるその目は、薄い紅梅色の瞳。
夜の闇の中で怪しく光る瞳はまさに鬼の目だ。
「…蒼樹〔そうじゅ〕…いつから鬼に…」
少しずつ体に力が戻ってくる。なるべく話を引き延ばせば鬼殺隊の誰かが気付くだろう、鬼の気配は周辺に漏れているはずだ。
蒼「つい最近ですよ。おかげで月奈お嬢さんの血の匂いがすぐに分かるようになりました。しかし鬼になって一つ難点が…」
バチン!と音を立てて詰襟を開かれ、蒼樹の指が露わになった首筋を撫でる。
蒼「血肉を喰らいたくなる悪食になってしまいました」
「いやだ…蒼…っうぁぁ!!」
ぐじゅり…と音を立てて首筋に蒼樹の牙が埋まっていく感触に月奈の目から涙が溢れていく。
(痛い!恐い!喰われる!!)
蒼「稀血には栄養があると聞いていたけれど、本当だ。力がみなぎってくるよ月奈お嬢さん」
首からは血がとめどなく流れ、抑えた手すらも血で染まっていく。ニコリと笑う蒼樹の口元は血に塗れ、細められた双眸は先程よりも色が濃くなっていることに気付いた月奈はゆっくりと立ち上がる。