第14章 未知*
杏寿郎の手を払った瞬間、月奈の手が一纏めにされ壁に押し付けられた。その一瞬が見えず、何故自分は今右肩を壁に付けているのか、何故視線の先には自分の腕が一纏めにされているのか分からなかった。
「…へ?」
煉「うむ。さすがに右目だけでは物が捉えづらいな!」
(!!???)
首を左へ捻れば、杏寿郎が頷いているのが見える。
その左手は月奈の両手を壁に縫い付けるように押さえ込んでいる。右手は…と視線で追うがどうやら背中側の壁についているようだ。
「あ、あの…杏寿郎様!先ほど逃げてしまったことの弁明をさせてください!」
煉「ほぅ?いいだろう、聞いてやる」
ニコリと笑う杏寿郎、答えを間違えれば確実に不味い状況だと察する月奈はゴクリと唾を飲み込み視線を逸らす。
「行動の原因ですが、その…最近というか先ほどもですが、触れ合いが過剰なのではと思いまして」
煉「過剰?…あぁ、耳か」
クスリと笑う声が聞こえた途端、街に行く前の出来事を思い出し月奈は顔が真っ赤になっていく。その反応すら、杏寿郎にとっては「愛い」と感じさせる。
「そ、それでですね!…その、あのような事をされると前後不覚になってしまいまして、その後の行動に支障を来してしまうのです!」
煉「眠りによって回復しているだろう!それに…」
前後不覚になる程に感じているということか。そう囁かれた月奈はビクリと肩を震わせる。
「そういうところですよ!杏寿郎様のそういう行動が困るんです!あのような事をされると訳が分からなくて恐いんですよ!」
追い詰められた猫のように、杏寿郎をキッと睨み付け喰ってかかる月奈。一瞬驚いたような表情をした杏寿郎だったが、ふむ。と何かを考えるように視線を逸らした。
煉「恐がらせるのは本意ではないな。しかしあの姿は愛いからやめることは出来ん!」
スッキリとした笑顔で答えられると、こちらが悪いことをしている気になってくるのは何故だろうか。月奈は腕を解放されたが、その場を動けずにいた。
「……せめて耳はやめてください。接吻は、その、私もしたいのでいいのですが…」
断固拒否!と思っていたのに、結局裏が無い発言の影響なのか月奈は折れてしまった。
煉「耳は刺激が強いからか。それが恐いのならば我慢しよう!」