第14章 未知*
(何か意味合いが違うような気がするけれど…とにかくやめてくれるならいいか)
「では、そろそろ台所に行かないと。杏寿郎様も湯浴みしてくださいね」
煉「あぁ、そうしよう。その前に…」
部屋を出ようとした月奈の腕を掴む。こちらを向いた月奈の口に軽く触れると、少し恥ずかしそうに視線を彷徨わせた後目を閉じる。
触れ合うだけの唇に、心地よさを感じつつ二人はくすぐったさに息を漏らして微笑んだ。
千「あ、月奈さん!頂いた包丁、とても使い易いですよ!」
台所に入ると既に千寿郎が夕餉の準備をしている所だった。お世話になっている御礼に、と千寿郎には希望した包丁を金物屋で買ったのだ。早速使ってくれていて月奈も嬉しい。
「それにしても、本当に包丁で良かったのですか?」
千「はい!そもそも俺まで御礼を頂くようなことはしていないのに良かったのでしょうか」
(いつでもお嫁に行けますね千寿郎さん…素晴らしいです)
月奈は心の中で千寿郎に賞賛の拍手を送った。嫁修行する女性よりも手際良く家事をこなし、槇寿郎や杏寿郎を支えている。その背景には、早いうちに母である瑠火を亡くしたことが大きいのだろう。千寿郎は男だが、間違ってお嫁に来て欲しいと言ってしまいそうなほどだ。
「寧ろ、貰って頂かないと困ります!喜んで頂けたなら良かった」
二人で話しながら料理をしていると、なにやら騒々しい足音が向かってきた。音の方向から察するに湯殿の方からだと分かる。
煉「よもや!今日はさつまいもご飯か!?」
ちょうど炊き上がったさつまいもご飯の匂いが廊下に流れたのだろう。嬉しそうな表情で台所に入ってきたのは、二人が予想した通り杏寿郎だった。
千「兄上、髪をしっかり拭いてください!お風邪を召しますよ」
煉「むぅ、すまん!楽しみ過ぎてつい、な」
「また槇寿郎様に叱られますよ、二十にもなって廊下を走るなと」
月奈が言ったことは、居間へと料理を運んでいる間に現実となり千寿郎と月奈は苦笑しながらも膳を並べるのだった。