第14章 未知*
昔よりも恋については自由になりつつある。必ずしも親が決めた許嫁と婚姻関係にならずとも好いた相手と結ばれることが可能となった時代。
だからといって貞操観念はそう簡単には変わらない。
恋仲になったからといって婚約でもなければ婚姻でもない関係、ここで抱くなどと自分勝手にしてはならないのだ。
責任を取れと言われれば喜んで取ろう。だからといってわずか十五の娘の人生だ、まだ楽しむことが沢山在るだろう。出会いも送られた釣書以上にあるはずだ。
煉「俺に溺れさせるつもりが、俺が溺れてしまったか。よもやよもやだ」
千「え?一緒にですか?」
食材の買い出しに行くため玄関で草鞋を履いていた千寿郎は、声をかけた月奈に向き直る。街へ行くならついていきたいと声をかけたのだ。
「買いたいものがありまして、せっかく隠としてのお給金も貰いましたし。駄目でしょうか?」
千「いえ、俺は構いませんよ。父上と兄上は?」
「槇寿郎様はお部屋から返答が無かったのですが、眠られていたのかしら。杏寿郎様も部屋で眠っています。書置きしているので大丈夫とは思いますが」
話し合いという名の家族会議後に仮眠を取った(否、取らされた)月奈は、蝶屋敷から戻ってきた疲れはすっかり取れていた。
(仮眠の原因になったアレによる疲れは取れていないけど…)
遊廓の時もだが、杏寿郎に触れられると波のような快楽に呑まれてしまう。呑まれた後は、急激な眠気に襲われるのだ。
(特に今日のは、いつものような緩やかな波じゃなかった。少し恐かった)
千「では、行きましょうか!」
「あ、はい!」
千寿郎の声に意識を戻した月奈は慌てて草履を履くと街へ向かった。
千「ところで、街には何を買いに行くのですか?」
「新しい道着が欲しくて!それと、煉獄家の皆さんに初のお給金で何か御礼を!」
初の給金は両親への御礼に使うとどこかで聞いたが、月奈には両親が居ない。それならば世話になっている煉獄家に何か御礼をと月奈は考えたのだ。
千「御礼ですか?そんなことを気にする必要は無いって父上も兄上も言いそうですが。それよりご自分のことに使われてもいいのでは?」
「いえ、自分の物はしのぶさんや杏寿郎様に買っていただいた物が…」