第14章 未知*
(疲れているのね。片目の生活は辛いもの…)
視線を清花の文に戻すと、ときと屋を出入り禁止になった植木屋について書かれている。まだ制裁は下していないが、計画は進んでいるようだ。
(計画の内容は天元様と清花さんが分かってる。私は知らされていないけれど、制裁が下ることを待つしかない)
任せた以上口出しは出来ない。と月奈は分かっている。それに、こちらはこちらでやらなければならないことがあるのだ。
「任務に入る前に生家に行かなきゃ…」
釣書の返事も蝶屋敷に持って行かなければならない。さすがに量が量だ、鴉には頼めない。隠は時に鴉では間に合わないような文や荷物を隊士から預かり届けたりすると聞いた。自分も隠だ、体力を維持していつでも動けるようにしておかないといけない。
文を畳んで脇に置いた月奈は、杏寿郎の横顔を眺める。左に座ってしまったため眼帯しか見えないが、眠ったまま規則正しい呼吸を繰り返している。
(そういえば、先ほど耳が赤くなっていた。可愛かったなぁ…)
耳が目に入った月奈はそんなことを考えながら指で触れる。自分と恋仲になったことの喜びが隠しきれなかったのだと思うと、とても愛おしく感じた。
煉「…俺の耳はそんなに面白いか?」
「!!」
杏寿郎が起きたことに気付かず、無意識に耳に触れていた月奈は慌てて手を引っ込める。
「す、すみません。無意識でした…先ほど耳が赤かったなぁと考えていたら…つい」
煉「む?いつだ!」
「交際の報告をした時に…あれ、また赤く…」
指摘した途端に杏寿郎の手が月奈の耳に触れた。すり、と指を動かされくすぐったさを感じ月奈は笑ってしまう。
「くすぐったいですよ杏寿郎様。ふふ」
煉「あんまり俺を揶揄うなと何度言えば分かるんだろうな。月奈」
「揶揄ってなどいないです、ただ事実を…」
述べただけ、と言いかけて体がピクリと跳ねる。
耳から顎へと杏寿郎の指が滑っていくと、月奈の顔がみるみる赤くなっていく。
煉「月奈は耳どころか顔まで真っ赤だな、どうした」
意地悪く笑う杏寿郎に言い返せず「うぅ」と唸るしかない月奈は、いとも簡単に杏寿郎の膝の上に乗せられていた。
顔を隠すように抱き着くと、杏寿郎は笑いながら背中を撫でる。