第14章 未知*
表情を見る限り千寿郎は言葉にピンときていないようだが、槇寿郎と杏寿郎は確実に知っているはずだ。なのに教えてくれないのは何故なのか。
(意図的に答えないようにしている?)
うーん、と考えた月奈は突然閃いたとばかりに表情が明るくなる。それを見た全員が一抹の不安を感じたが、月奈の発言で予感は的中した。
「もしかして男性には答えづらい物ですか?それでしたら質問してしまい申し訳ありませんでした。清花さんかしのぶさんに聞いてみます!」
槇・煉「!!?」
「どうして教えてくださらないのですか!」
部屋に戻った月奈は、はぐらかし続ける杏寿郎に詰め寄る。教えることもしてくれず、誰かに聞くことも許さないとなれば納得できないのは仕方ないだろう。
煉「知る必要などないからだと先程も父上に言われただろう!それで話は終いだと」
集中しろ、と机の上の書類を指差す。釣書の断りは自分でやると言ったのだ、早急に作成して返事をしなければ失礼にあたる。渋々机に向かう月奈は筆を握って呟く。
「釣書を貰うような齢なのに、恋慕のいろはも知らない子供だから教えて頂けないのでしょうか」
煉「そういう発言が子供染みているな!早く筆を進めろ」
終わったら少し話そう、と頭に手を置かれ月奈は自分に呆れながら返事を書き始める。
(これじゃ癇癪を起す子供、呆れられるのも仕方ないわ。とにかく今は返事を書くことに集中しよう)
静かになった部屋で、杏寿郎は清花からの文を読もうとするが、目の疲れを感じ目を閉じる。片目を失ってまだ数日しか経っていないのだ、右目だけでの生活にはまだ慣れない。
ー圧迫感が取れるまでに一か月はかからないと聞いたが、しばらくは任務にも出れないだろうな。
家での生活は、元々体に染みついた感覚があるから問題はない。しかし外に出れば動きづらいだろう、鬼との距離が測れなければ倒すこともできない、そんな隊士は無意味だ。
ー柱として早く感覚を戻さなければ。
一通り返事を書き終えた月奈は、軽く伸びをすると壁に寄りかかったまま目を閉じる杏寿郎に気付く。
「杏寿郎様?」
声を掛けるが、返答はない。表情も変わらない所を見ると、眠っているのだろう。月奈は隣に座ると清花の文を読み始めた。