第14章 未知*
隠として、か。と槇寿郎が胸を撫で下ろしたところで、千寿郎が思い出したように顔を上げた。
千「その任務の時期と言うのは、胡蝶様と蜜璃さんがいらっしゃった時の?」
「そうです!天元様と任務に向かいましたね」
合点がいったのか千寿郎が槇寿郎にその時の事を説明する。それを眺めながらお茶を啜る月奈の隣では、杏寿郎が文に目を通していた。
千「任務にはあのような恰好で行かなければならなかったのですか?隠の隊服ではありませんでしたよね?」
「あぁ、あれはしのぶさんと蜜璃さんが持ってきてくださった古着です。遊女として潜入だと気付いたのはここを出る直前で…」
そこまで答えた瞬間、槇寿郎の目がカッと見開かれた。煉獄家の目はどこを見ているか分からないような独特の目だ、平常時であっても威圧感を感じる。それが見開かれると慣れている月奈でも体を引いてしまう。
槇「月奈が遊女で潜入だと?杏寿郎、お前と宇髄は何をしていた?」
煉「俺は客役で既に花街に潜入しておりました!宇髄は女衒の役で…」
言い終わる前に槇寿郎が杏寿郎の胸倉を掴んでいた。一瞬驚いたものの、千寿郎と月奈は二人の間に入る。
「槇寿郎様、どうされたのですか!?」
千「父上!乱暴はやめてください」
煉「二人とも、俺は大丈夫だ!父上、〔水揚げ〕の件であれば心配は不要。宇髄が手を打っておりました」
(あれ、また〔水揚げ〕?何で皆それを気にするのかしら)
煉「月奈がときと屋に入ってすぐ、俺が客として付きましたので問題ありません!」
その言葉を聞いた槇寿郎は大きく息を吐くと手を離した。
杏寿郎は衿を直すと、間に入った二人の頭を撫でる。
槇「月奈に何もなかったのならそれでいい」
「私ですか?…えぇと、一つ質問があるのですが」
自分の名前が出たことに首を傾げながら、以前から疑問だったことを質問するべく挙手する。
槇「なんだ?」
「遊郭に潜入した際、杏寿郎様も天元様に仰っていたのですが〔水揚げ〕とは一体何のことでしょう?」
槇「…宇髄は遊郭に潜入させる人材を間違えたんじゃないか?よくこれで無事に任務が出来たな」
ありえん。と呟いて杏寿郎に視線を戻した槇寿郎。「俺もそれは思いました!」と杏寿郎は答えているが、誰も月奈の問いに答えようとしない。