第14章 未知*
千「俺も同席だなんて、何の話なんでしょう」
「釣書も持って来いだなんて、杏寿郎様は一体何をお話したのかしら」
槇寿郎達が居る部屋に向かう間も、終始疑問符が頭上に舞うばかりの二人。そういえば、と千寿郎が月奈が持っている釣書に目を向ける。
ー枚数はざっと十ほどかな。鬼殺隊の方からなんだろうけれど、隠に所属している限り任務中は顔を隠しているはずの月奈さんに釣書を送るなんて、不思議だなぁ。
隣を歩く月奈は普段の生活を見る限りでは、教育を受けていたと分かる綺麗な所作だ。任務中の月奈は知らないが、顔を隠していても人を惹きつける何かがあるのだろうか。
「千寿郎さん?おーい」
月奈の声にハッと意識が現実に戻ると、既に部屋の前に到着していることに気付いた。千寿郎の眼前で手を振っていた月奈は「あ、お帰りなさい」と微笑んだ。
室内からは槇寿郎と杏寿郎の声が聞こえている。
失礼します、と声をかけて室内に入った月奈と千寿郎は、入れ直したお茶を配り終わると座布団に座る。
(とりあえず、杏寿郎様の隣に座ったけれどいいのかしら。槇寿郎様の隣は千寿郎さんだよね…)
槇「帰ってきて早々だが、月奈に確認することがいくつかあってな。話が終わったらゆっくり休んでくれ」
そういう槇寿郎の表情は真剣だ。月奈は自然と背筋を伸ばして槇寿郎を見つめる。
槇「まず一つ目だが、杏寿郎と交際しているというのは本当か?」
千「父上!それは本当ですか!?」
千寿郎に揺さぶられながらも、槇寿郎は月奈を見つめる。
「本当です。つい先日から、交際させて頂いております」
すんなりと頷いた月奈は杏寿郎をチラリと見る。喜んだ表情が見られるかもと期待したが表情は普段と変わらないまま真っすぐ前を見ている。
(少しは照れたりしないのかしら?表情はいつも通りね、つまらないわ)
残念、と溜息をついて視線を槇寿郎に戻す瞬間に、杏寿郎の耳が少し赤くなっているのが見えた。
(なんだ、きちんと喜んでくれていたんだ)
きっと皆への報告だから、落ち着いたフリをしているのだ。そう分かると、杏寿郎が可愛く見えて笑みが零れてしまう。
槇「そうか。では二つ目、月奈に送られた釣書の件についてだ」