第14章 未知*
机に突っ伏した月奈は、同じ組織で傍にいられることはとても幸せなのだと思う。通常であれば、家で夫の帰りを待つだけ、何があっても待っているしかできないのだ。
「それは普通のお嬢さんは心配だよねぇ…親が反対するのも当然だわ」
自分も稀血ではなかったら、家族を鬼に殺されていなければ、普通に暮らしていたのだろう。鬼殺隊という組織を知ることもなく、こういった釣書を貰い縁談がまとまって…
なんの変哲もない、いたって普通の幸せだ。
何を不安に思うこともなければ、死が身近に感じることもない。しかし、その幸せの中では鬼殺隊の人間と出会うことは無い。もちろん杏寿郎にも出会うことはなかった。
「!…」
がばっと体を起こすと、書くべきことが分かった月奈は、筆を取った。
千「兄上、お話は終わったのですか?」
煉「いや、父上が月奈を連れて来いと仰ったのでな!呼びに行くところだ!」
千「お部屋にはいらっしゃいませんでした。どちらに行かれたのでしょうか…」
振り向くと、困り顔の千寿郎が立っている。その手に持ったお盆にはお茶の入った湯呑みが乗っている。先ほど自分たちの部屋にもお茶を持ってきてくれたことを思い出す。
煉「月奈ならば俺の部屋だ!今頃胡蝶から渡された釣書に囲まれているだろう、お茶の差し入れは喜びそうだな」
千「釣書というと…え?縁談ですか!?」
蝶屋敷を出発する時にしのぶから書類を受け取っていた場面は確かに千寿郎も見ていた。しかし任務関係の書類だとばかり思っていた。
煉「月奈!父上が話があるとのことだ!」
部屋の前に到着すると、杏寿郎が声をかけて襖を開く。机に向かっていた月奈が釣書から視線を離す。
「私に話ですか?なんだろう?」
散乱した釣書を軽く纏めていると「釣書も持って来いと言っていたぞ!」と杏寿郎はニコリと笑った。
(なんで…?槇寿郎様と何の話をしたのかしら)
杏寿郎は首を傾げた月奈から千寿郎へと視線を移すと、お茶の入れ直しをしてから月奈と部屋に来るように伝える。
千「俺も同席ですか?」
うむ!と頷いた杏寿郎は一足先に槇寿郎の待つ部屋へと戻って行った。残された二人、千寿郎と月奈は茫然と杏寿郎の後ろ姿を見送るだけだった。