第14章 未知*
し「お迎えが来ましたよ月奈。これから任務復帰ですが、無理は禁物です、いいですね?」
「事後処理部隊であることを忘れずに、任務頑張ります。蝶屋敷に運び込まれることが無いように…でももし運ばれたら優しく手当てしてくださいね?」
隠の隊服を着た月奈は、首を傾げて両手を合わせる。おねだりの格好をしてみるが、しのぶの表情を見る限り通用していないようだ。苦笑した月奈は、ふと視線を落とす。
「隠ではなく剣士だったなら…」
(共に戦えたかもしれない、目を失うこともなかったかもしれないのに)
し「月奈?どうしました?」
「剣士だったらもっともっとケガしてしのぶさんに怒られるなぁって考えたら、隠で良かったなぁって考えてました!」
ぱっと顔を上げた月奈は、また遊びにきますね!次は患者ではなく普通に!と笑って荷物をカバンに詰めて背負った。
煉獄家に帰宅するなり、杏寿郎は槇寿郎と二人で話すため部屋にこもってしまった。月奈は自室で着替えを済ますと、カバンから枚数が増えた釣書を取り出す。
し「私から全て断ることもできますが、一応月奈宛なのでお渡ししますね」
そう言って追加の釣書をしのぶは渡してきた。出発間際の事だったので、全員の視線がそこに集中していたことを考えると釣書だと分かっただろう。
「しのぶさんに全て断ってもらうことが一番手っ取り早いのだろうけれど、やっぱり文できちんとお断りしなきゃ申し訳ないわよね」
最終的にはその文をしのぶに預けることになるので、迷惑をかけることに変わりはない。その上しのぶに断らせるという迷惑を重ねるわけにはいかない。
「文章は全部同じでいいかしら、こういうのって全部に目を通す物…?」
槇寿郎と話し合いを始める前に、杏寿郎には部屋にある墨と筆を借りたいと話してあったので、とりあえず文机に向かった。が、そういった作法を知らない月奈は真っ白な紙を前にして眉根を寄せる。
何と書けばいいのか…
追加です、と渡されていた釣書を手に取り眺める。
鬼殺隊という政府非公認の組織が故なのか、普通の家柄の女性を嫁取りすることは難しいのだろう。いつ死ぬかも分からない、周囲には理解されない仕事の男を良しとする親はあまりいないのではないだろうか。