第13章 気付き
ア「私には嬉々として渡しているように見えたけれど」
し「それは誤解ですよアオイ、私は〔断り切れず〕渡したのです」
飛び出した部屋で、引き攣った表情のアオイと楽しそうに笑うしのぶが話すことは月奈が知る由もなかった。
「杏寿郎様!!」
走った勢いそのまま、扉を開け放った月奈の目にはベッドの上で数枚の紙を見ている杏寿郎の姿を捉える。突然開いた扉に驚く様子もなく、月奈か!と視線を上げた杏寿郎の表情は楽しんでいるような笑みを浮かべている。
煉「そんなに急いでどうしたんだ!あぁ、ガーゼも取れたのか、完治だな!」
「ありがとうございます…って完治の話はどうでもいいのです!しのぶさんから受け取った物を返してください!」
杏寿郎の手にある紙には確かに〔釣書〕の文字が書かれている。奪い返そうと手を伸ばすと、意外にもあっさりと返されて月奈は拍子抜けする。
天「遅かったな月奈。煉獄は全部見終わってるぞ、俺も」
窓辺から声がして顔を向けると、天元が微笑みながら「よぉ」と手を上げている。天元が居ることも気付かず、杏寿郎には声を張り上げて迫り、その上釣書を全部見られたという事実に月奈は眩暈がした。
「…こんにちは天元様。気付かず申し訳ありません」
天「おう!完治おめでとう!近いうちに派手に祝ってやるよ、雛鶴達も心配してたからよ!」
煉獄も退院してからな。と月奈の肩を叩く。
恨めし気な目を向けると「じゃ、俺はそろそろ帰るわ!」と逃げていった。
(祝いの席で雛鶴さん達にこの件を言いつけよう。怒られればいいわ)
心の中で小さい復讐を誓った月奈は、杏寿郎が笑いをこらえていることに気付く。
「笑いごとではありませんよ杏寿郎様。私の釣書を見て何が面白いのですか」
溜息を吐いて、椅子に座ると手に持っていた釣書にさらりと目を通す。予想した通り隊士からばかりだ、剣士もいるが隠もいることに驚く。
(隊士全員を把握している訳ではないから知らない人ばかりだけれど、階級的には癸や壬が多い)
「そういえば階級…」
藤花彫りを施された右手の甲を見て呟く。隠とはいえ隊士である以上、階級が存在する。しかし、階級を確認する機会など無いに等しい月奈。
煉「む?階級を示せ、だ。忘れたのか?」