第13章 気付き
なんだかんだとすれ違いはあったが、杏寿郎との関係が落ち着いてから数日。月奈はしのぶから完治の診断を受けた。
し「完治したからといって無茶はしないでくださいね。任務に出るとケガをして帰還するのが当たり前になっては困りますよ」
「はぁい…気を付けます」
ガーゼを外した左目を薄く開くと、眩しい日の光が飛び込んできた。瞬きを繰り返していくと徐々に慣れていき、久しぶりに両目で物を見ることに違和感を感じる。
「距離感が変です。見づらい…」
それはそうですね。としのぶは頷いて瞼の傷が治癒していることを再度確認している。
ア「長期間、片目で物を見ていた生活だから両目の生活に戻るにもしばらく慣れが必要になると思うわよ。片目の時のような圧迫等はないと思うけれど」
しのぶの傍らで、月奈の腕の包帯を外していたアオイはいつものようにハキハキと話す。腕の傷は引き攣ったような跡がうっすらと残ってしまった。鋭い刃物ならば綺麗に治ったかもしれないが手甲鈎で無理やり裂いた傷だ、それでも薄くなっただけマシだろう。
「両目の生活に慣れるように、なんて変な感じです」
床頭台の水差しを手に取り口をつける。しのぶは外した包帯やガーゼをアオイに渡すと、月奈に向き直った。
し「先日の釣書の件ですが…」
(あれ?全部断るって話したような…)
仲介者となる親が居ない月奈は、回復してから断る文を書こうかと考えていた。その件は先日話していた。元々から断るつもりだった上、杏寿郎と恋仲になった以上双方に不義理はできない。
し「煉獄さんが釣書に気付いていたようで、しつこく見せろと言うので…」
お渡ししてしまいました。としのぶがさらりと伝える。それを聞いた月奈は水を噴き出した。
「ぶっ!?…げほっげほっ!!渡した…っていつですか!?なんで!?」
し「この部屋に来る前に、診察室で煉獄さんを診察していたのです。私も断り切れず、ごめんなさいね」
月奈自身、文を書く時に確認しようと思って放り出していたのだ。どのような人物から送られてきたのかも知らない。申し訳ないとは思うが興味が無かった。
しかし、隊士であることは予想が付いている。杏寿郎が知っている隊士も混じっているかもしれないことを考えると、月奈は一目散に杏寿郎の部屋へと向かった。