第13章 気付き
後は、腕に力を込めろ。と教える杏寿郎の手には〔炎〕の文字が浮かび上がった。
「柱の方たちは〔甲〕ではなく、拝命した柱の名が浮かび上がるのですね?」
煉「あぁ!〔甲〕と〔柱〕を明確に区別する為だと聞いている!」
なるほど、と月奈は頷いてから、自分の階級を確認する。浮かび上がったのは〔壬〕、月奈は不思議に思い首を傾げた。
(鬼を倒したこともないのにどうして上がったんだろう?)
煉「〔癸〕ではなく〔壬〕か、階級が上がっているな!階級は功績で変わる、はっきりとした条件は分からんが、考えられるとすれば無限列車での任務か!」
「そうですね。まさか遊郭ではないでしょうし…って!この話をしに来たんではないんですよ!…あぁもう…」
杏寿郎の部屋に来た理由を思い出した月奈は、話の腰を折られ過ぎて脱力した。これ以上話してもどうせ腰を折られそうだ。
煉「追及を諦めたか?」
含み笑いで覗き込んでくる杏寿郎に、月奈は「もういいです」と痛む頭を押さえて答える。完全に遊ばれている、この様子だと月奈が飛んでくることも予測済みだったのだろう。
「天元様が快気祝いを開いてくださると言ってましたが、杏寿郎様の退院の目途が立ったのですか?私は明日には退院できるとしのぶさんに言われましたが」
煉「俺は腹の傷が塞がった時点で退院だ!目はどうしようもないからな!」
杏寿郎の目は眼球が駄目になってしまっている、つまり失明状態だ。外傷は無かった為、今は包帯も外されている。瞼が閉じられたままの左目は二度と光を見ない。
煉「そんな顔をするな月奈!ちなみにだが、腹の傷もとうに塞がっている!」
「…はい?塞がっている!?」
杏寿郎の発言に月奈は目が点になる。そういえば、腹部を刺された炭治郎も既に任務に復帰しているとしのぶから聞いている。
「回復力の化け物ですか」
それとも自分の回復が遅いのか。月奈は、「ははは」と乾いた笑いが出る。
煉「よもや!化け物とは!…兎に角、明日退院だな!家に鴉を飛ばしておくから、父上と千寿郎が迎えに来てくれるぞ」
「明日が楽しみです!」
途端に二人に会えることが待ち遠しくなる月奈に、手に持った釣書がくしゃりと音を立てて存在を主張した。
(退院したらすぐ返事しよう…)