第13章 気付き
確かに挙動不審だ、と杏寿郎は思う。
しかし、何故そうなっているのか分からないままでは、この先もこの状態だ。
煉「逃げずに話そうと言ったはずだが。その行動の要因はなんだ?」
「え…っと、その、恋仲について考えると天元様の一言が思い出されてしまうのです」
煉「宇髄の一言だと?」
相変わらず蹲ったままの背中に杏寿郎はゆっくりと立ち上がって近付く。しゃがみ込むと、なんだか虐めているような気分になってしまう。
煉「あぁ、恋仲とは欲を感じる相手、だったか?」
艶やかな月奈の髪をひと房すくい上げると、真っ赤になった耳が見える。
「そ、それです。…って、え!?」
突然耳元で声が聞こえ振り返ると、ニコリと笑う杏寿郎が間近にいることに驚く。反動で、壁に埋まりそうな勢いで張り付くが、埋まるはずもなく杏寿郎との距離は迫ったままだ。
「きょ…杏寿郎様!近いです…」
煉「何を恥じらう?遊郭ではもっと近付いていただろう」
その言葉で更に真っ赤になる月奈を見ていた杏寿郎は、廊下の遠くから足音がこちらに向かってくることに気付く。月奈はすでに頭が一杯一杯なのだろう、気付いてはいないようだ。
「!!あ、あれは任務で…っ」
声を上げた月奈は、杏寿郎の手で口を塞がれる。指を唇に当てて「静かに」と囁いて視線を廊下に繋がる襖に向ける。
(い、息が吐けない。早く通り過ぎて!)
杏寿郎が廊下に視線をやったことで、月奈は誰かが自分たちの部屋の方に向かってきているのだと気付いて、息を止める。
(こんなところ見られたら…ど…どうしよう!?)
足音が遠ざかって行くことを確認して、杏寿郎は抑えていた手を緩める。その瞬間、「ぷはぁ!」と月奈の口から息が吐きだされる。
煉「よもや、息を止めろとは言ってないぞ!」
「つい、止めてしまいました。すみません」
長く細く息を吐いた月奈は、杏寿郎に笑いかける。
未だ間近にある杏寿郎は苦笑している、月奈は自分が置かれている状況が何も変わっていないことに気付く。
煉「で、任務だから…何と言う予定だったんだ?」
(忘れてくれなかった…)
「任務と思っていたから、割り切れたんですよ。…遊女がお客に体を許すのは当然ですから!それだけで十分だと思っていたので…」