第13章 気付き
(そういえば、善逸様は音が聞こえてた、と以前藤の花の屋敷で話していたわ。炭治郎様は鼻、善逸様は耳が良いのね。伊之助様はどこか突出した力があるのかしら?)
「…顔?」
よく考えれば、伊之助については顔が良い、それしか知らない。身体能力は高そうだ、と頷いたところで肩を叩かれて飛び上がる。
「ひゃっ!!」
煉「見つけたぞ。何故逃げた?」
左から声が聞こえ冷や汗が溢れ出す。右目では左側を見ることが出来ない、しかし誰の声かくらい姿を見ずとも分かる。
「に、逃げるとは何のことでしょう?」
煉「一度は捕まえたと思ったんだがな!」
「うわぁ!!?」
肩に担がれた月奈はじたばたと抵抗するが、鍛えている杏寿郎に敵う筈もなく次第に大人しく担がれるまま項垂れるしかない。
「杏寿郎様…もう逃げませんから…下ろしてくださいよ」
どこに向かって歩いているのか担がれている月奈には見当がつかない。なにせ床しか見えないのだ、顔を上げても遠ざかる廊下しか見えない。
ぴたりと杏寿郎の足が止まり、襖を開ける音がすると、畳の上に下ろされた。
煉「では、逃げずに話そう。俺も病み上がりだ、追いかけっこはさすがに堪える」
ふぅと息を吐いた杏寿郎は、苦笑して月奈に座るように促して自身も腰を下ろす。追いかけっこが原因ではなく、自分を抱えて歩いたのが原因ではと考えると、逃げてもいずれ捕まるだろうと諦めて向かい合うように月奈も座った。
煉「月奈が怒っているのは、無限列車の任務での俺の行動か?それについては申し開きもできない。それとも、言葉にしないまま曖昧な関係にしたことを怒っているのか?俺はそのつもりはなかったのだが…」
「無限列車のことは、私が言える立場ではありません。後になって考えれば自分の事を棚に上げて言ってしまって恥ずかしい限りです。別に怒っているという話ではなくて…その…うぁぁ!」
(恋仲は欲を感じる相手だ!)
天元の言葉が頭に響く。全身の熱が一気に顔に集まってくると、月奈は耐えられなくなり頭を抱える。突然の行動に杏寿郎はビクリと肩を揺らすと「月奈?」と手を伸ばしたが、月奈は部屋の隅に逃げて蹲ってしまった。
「すみません…最近ちょっと挙動不審だったので杏寿郎様に会わないように…していました」