第12章 失ったもの
月奈には心当たりがなく、首を傾げると雅雄の背後を見てギョっとした。杏寿郎が雅雄の衿首を掴んでいる姿が見えたからだ。
「な、なにをしているんですか杏寿郎様!」
雅「…そんな敵意を出すくらいならはっきりさせてくれれば俺だって邪魔しませんよ。あまりのんびりしているから俺の入る隙があるのかと思ってつい…」
煉「うむ!そうならないように注意しよう!」
ボソリと月奈に聞こえないように耳打ちした雅雄に、杏寿郎はいつも通り口角を上げて頷いているが目が笑っていない。訳が分からない月奈はオロオロしていたが、後ろからしのぶが肩に手を置いて「放っておきましょう」と微笑んだのであっさりと考えるのを放棄した。
し「さ、そろそろ皆さん部屋に戻ってくださいね。皆さんも完治したわけではありませんので、しっかり休んで回復してくださいね」
そう言われて雅雄はしのぶと話しながら部屋を出て行く。杏寿郎は少し考えこむように立っていたが、月奈に椅子を勧められて腰掛けた。
雅「胡蝶さん、あの二人…」
し「まだ恋仲になっていないようです。全く奥手過ぎて吃驚ですよ」
溜息をついたしのぶは、そう言いつつも楽しそうに笑っている。雅雄は、楽しそうですね。と微笑む。
し「それはもう!月奈を簡単に煉獄さんに独占されるのは面白くありませんしね」
雅「なるほど、確かにそれは俺も思いますね。でも、炎柱様は割と分かりやすく行動しているのに、進展が無いというのは不思議ですね」
うーん、と悩んでいた雅雄はふと先ほどのしのぶの発言に疑問を持った。
雅「そういえば、先ほど胡蝶さんが言っていた〔約束〕ってなんでしょうか?」
二人の間で交わされている約束のようだった。そしてその内容を知られることを避けた杏寿郎。二人は〔約束〕とやらの内容が気になったが、人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえという言葉が頭に浮かび「深入りはやめましょうか」とどちらともなく言うと頷き合った。
「あの、杏寿郎様?一体いつからいらっしゃったのですか?」
煉「…寝ている時だな。しかし朝霧少年が先に部屋に居た!」
そうなると、しのぶとの会話は全て聞かれていたということになる。月奈は自分の発言を必死に思い出していた、何か変な事言ってないか?と不安になる。