第12章 失ったもの
煉「すまなかったな。俺が約束を違えかけたこと、月奈が怒るのは当然のことだ。朝霧少年の言葉を聞いて自分の選択が月奈を巻き添えにすると分かって血の気が引いた」
「後追い、ですか。雅雄様の勘は鋭かったです。私も色々と考えすぎて八つ当たりしてしまいました。申し訳ありません」
体を起こしていた月奈が杏寿郎に頭を下げる。下げた拍子に肩から滑り落ちる髪を掬い取った杏寿郎は、伏せていた目を上げ顔を上げた月奈と目を合わせた。パチパチと目を瞬かせた月奈はふと微笑んで杏寿郎の左目に巻かれた包帯に触れて呟く。
「不謹慎ですが、左目の負傷…お揃いですね」
煉「そう言われてみればそうだな!しかし月奈の包帯はいずれ取れる。俺は眼帯が必要になりそうだ」
遊郭潜入の時の眼帯がここで役に立つとはな。と苦笑した杏寿郎に、潜入の時に起きたことを思い出して少し笑ってしまった。
「眼帯も似合っていましたが、やっぱりその瞳が見えないことが寂しかったなぁと思い出しました」
煉「似合っていたか、それは良かった!遊女姿の月奈も珍しいもので中々に良かった、他の男の目に触れていたのは気に喰わないが」
その言葉に、顔を真っ赤にした月奈は「誰も見ていないですよ私のことなんて…」と小声で言い返す。
煉「…こんなことになるなら、もっとしっかり両目で月奈を見ておくべきだったか。これは後悔だな!」
ははは、と笑顔を見せた杏寿郎の顔に少し寂しさが出ているような気がして月奈は、杏寿郎を抱きしめる。
「いくら杏寿郎様が強くても、突然隻眼になったことを受け入れることは大変でしたよね。私の前では強い杏寿郎様ではなくてもいいのですよ」
驚いて身を固くした杏寿郎の頭を撫でると、肩の力が抜けて腕が背中に回る。
煉「好いた女の前で弱くなれとは…それは中々に難しいことを言ってくれる」
「だからこそ弱くなれるのでは?私は杏寿郎様に色々な姿を見られてきましたよ、既に裸まで見られましたし?」
見てないぞ!と素早く反応した杏寿郎が面白くて笑ってしまう。
ーあの湯殿事件は一生言われるのだろうか…
肩を落とした杏寿郎の耳には月奈の笑いを含んだ声が届いた。