第12章 失ったもの
雅「月奈さんが血の匂いを出さなかったら俺もやられていたと思います。あの鬼が血の匂いに一瞬だけ反応を見せたからこそ、間に入り込む隙が出来たのです」
し「あら、月奈の目の前で死ぬつもりだったのですか。それは月奈にとって嫌な記憶を思い出させるでしょうね」
煉「それでも俺は柱だ。任務において優先するべきは犠牲を出さずに鬼を滅殺すること、自身よりもそれを優先するべきだ」
雅「ですが、今回は鬼の首を切ることが出来ず、炎柱様や俺が命を落としていたかもしれない…その状況を防ごうと動いた月奈さんの判断のおかげで俺も炎柱様も生きているのです。俺に御礼を言う前に月奈さんに御礼を述べるべきです」
まぁ、俺も死を覚悟していたので月奈さんには怒られるでしょうけれど。と呟いた雅雄は再び視線を月奈に戻す。
雅「月奈は俺なんかに目もくれず、ただただ炎柱様と猗窩座の間に割り込むつもりでしたよ。この腕の傷は少しでも猗窩座の意識を削いで衝突を回避しようと思ったのでしょう」
し「煉獄さんの為ですか、この腕の傷は。…いえ、煉獄さんのせい。と言いましょうか。それでいて、内容は未だ分かりませんが約束を違えかけて怒らせた、ということですか」
雅「約束?月奈さんと?」
煉「胡蝶、朝霧少年にそこまで話す必要は無いだろう!」
しのぶを咎めた杏寿郎は自然と声が大きくなり月奈の瞼がピクリと震える。しのぶは人差し指を唇の前で立て、二人に目配せをした。静かにしろ、という意味なのは分かるので二人は口を噤む。
「…あれ、しのぶさん?私眠っていたんですね」
し「起こしてしまいましたね、すみません。様子を見にきただけなので、ゆっくり眠ってください」
穏やかに微笑み月奈の頭を撫でてやるしのぶと、ベッドを挟んで反対側にいる二人は気付かれないように息を潜める。幸い、月奈はしのぶの方を見ているのでこちらに向かない限り気付かれないだろう。
「なんだか杏寿郎様の声が聞こえた気がしました。怒ってしまった後悔からの幻聴でしょうか」
苦笑した月奈は、ふと自分の左目に触れるとしのぶに静かに問いかける。
「あの、しのぶさん。杏寿郎様の左目がもう見えないっていうのは本当ですか?」