第11章 再会
手慣れた手つきで包帯を交換してくれた後藤に御礼を言うと、頭巾と顔布を元通りに身に着ける。その間に後藤は周りの隠に対して先頭車両に向かう事を伝え終わっていた。
んじゃ、行くかー。と後藤が戻ってきたところで再び先頭車両方向から大きな音が聞こえ、さすがにおかしいと月奈は思う。
(全車両が横転してるって情報が入っているのに、こんな大きな音がするのはおかしい。でも、列車の鬼は倒したはずなのに…)
後「これまた大きい音だなー。とりあえず向かうけど、物陰から安全かどうか確認しないとな。隠は戦えないし」
剣士ではない。
列車の中で言われた杏寿郎の言葉を思い出す。身の危険を感じた時のみ応戦を許すと言っていた。つまりは安全圏に居る限りは見ているだけ。
「戦えないことがこんなにも悔しいなんて…。とにかく行きましょう後藤さん」
猗「生身を削るような思いで戦ったとしても全て無駄なんだよ杏寿郎」
静かに杏寿郎に話しかける鬼の目には〔上弦 参〕が刻まれている。向かいに立つ杏寿郎の姿は珍しく呼吸を乱していた。
猗「お前が俺に喰らわせた素晴らしい斬撃も、既に完治してしまった。だがお前はどうだ」
杏寿郎に切られたのだろう、胸元の傷を鬼が撫でると瞬く間に塞がっていく。人間では有り得ない再生能力だ、鬼だけが持つ再生能力。
後「!?水橋止まれ!」
姿を隠す為に木の間を走っていた月奈は後藤の声で足を止めた。先頭車両付近までひたすら走ったので、思ったより早く到着したらしい。だが、制止を促した後藤の声は随分と気が動転しているような声色だ。
「後藤さん?もう先頭車両に到着ですか、気付かなくてすみませ…」
後藤を見ると、目を見開いて列車の方に視線を向けているのでつられて月奈も視線を向ける。
「え…?杏寿郎様…?」
視線の先には額や腹部から血を流している杏寿郎の姿。左目は閉じられている。何故片目で戦っているの?と思った月奈は違和感に気付く。
(違う、閉じてるではなく開けられないんだ!額からの血のせい、よね?まさか目を攻撃されたんじゃないわよね?)
猗「潰れた左目、砕けた肋骨、傷ついた内臓。もう取り返しがつかない」
鬼が話す状況に月奈は頭を殴られたような衝撃を受け、ヒュッと喉が締まったように呼吸がおかしくなる。