第10章 潜入 *
煉「明日の昼だ。皆が寝ている間にここを出る。宇髄は昼前に俺と合流して楼主に金を返すということになっているが、問題ないか?」
宇「了解。月奈、また別の任務に行くなら今の内に体休めとけよ。俺達程じゃないが隠だって忙しいからな、次の任務までの猶予は?」
「次は明後日の夜からです、駅に向かえと指示が入っていますので明日はゆっくり休めそうです」
ここのところ気を張り詰めていたからか、今更になってどっと疲れが押し寄せてくる。おそらく、明日にはここを出ることが決まったからだろう。急激な眠気に襲われ、月奈は目をこする。
煉「俺は少し宇髄と明日の話をしてくる。月奈は布団に入って休め」
素直に頷いて、部屋に敷かれた布団にフラフラと向かった月奈を横目に、二人は屋根に上がった。
人の気配が消えた部屋で月奈は布団に入り目を瞑るが、どうしても植木屋の顔を思い出して眠れない。
(こんな所で会うなんて…あれは鬼よりもひどい人間だわ。やっぱり私のせいで家族が死んだんだ…。杏寿郎様の言う通り、この任務に来るべきではなかったかもしれない)
ー他の男に触れられた場所を消毒しないと
そういった時のあの男の顔を思い出した月奈は体を起こす。
「…ぐ…っ」
胃から何かがせりあがってくる感覚に口を押える。
笑っていた、あの時も私を笑って見ていた。
「…ぅ…」
治まらない吐き気に涙が零れていく月奈の体に何かが触れた。
煉「…眠れないのか?気分が悪いなら吐き出してしまった方が楽だぞ」
「すみ…ません…」
背中に添えられた手の温かさに少しだけ嘔気が引くと、月奈は顔を上げる。その顔は嘔気のせいか青褪めている。
ーあの男のせいか…本当に厄介な男だ…
「…あの笑い顔…あの時も笑っていたんです…月哉が来なければきっとあのまま…」
(だから月哉を利用したんだ…邪魔されたから…)
煉「月奈。俺を見ろ」
「……」
煉「月奈」
虚ろな目がゆっくりと焦点を結ぶと、杏寿郎へ視線が向く。
「杏寿郎様…」
煉「そうだ、俺以外に誰もいない安心しろ。眠れそうか?」
ゆっくりと体を横たえられた月奈は、汗をかいた体が冷えたのか身震いをする。