第10章 潜入 *
清「旦那様、それは意地悪な言い方ですね。ここに入った時から既に口を噤むしかないというのに」
苦笑した清花は月奈を見つめ手を握る。
その行動で月奈は清花に話そうと決めて、手を握り返した。
煉「少し宇髄と話してくる。こいつは連れて行くからゆっくり話せばいい」
「ありがとうございます、杏寿郎様…」
男を脇に抱えて屋根へと消えていった杏寿郎。
それを見送った月奈は清花に向き直り口を開いた。
宇「おい煉獄。本当にいいのか?」
煉「俺は大丈夫と判断した!あとは月奈に任せる。それに、清花は存外賢いようだ」
天元はそうか、と呟くとまだ気絶している男を見る。
植木屋としては上手くいっているのだろう、そうでなければこの見世に上がることすら難しい。しかも身請けの話など、いくら留袖新造であっても安い金額で済むはずがない。
宇「こいつはどうすんだ?俺達聞いちゃいけないこと聞いちゃったんじゃないか?月奈があんなに怒った姿見たことないぞ」
煉「そこは失敗したと反省している。過去を暴くつもりはなかったが…この男は良く喋る。しかも月奈のことばかりだ」
ーなにより気にかかるのは、先日泣かせてしまったあの時は生娘だからだと思っていたが…この男が原因か?
ギリと歯を噛みしめた杏寿郎の肩に鴉が降り立つ。天元を見ると、同様に鴉が腕に止まっている。二人に同時に鴉が来たということは、この任務についてだろう。
鴉が話す事を聞きながら、男が目覚めないか確認していた杏寿郎は少しして目を見開いた。
宇「煉獄が任務離脱?」
煉「そうみたいだな。俺は別任務のようだが、宇髄は?」
宇「俺は引き続き遊郭だと。月奈も離脱なら嫁を招集するか」
「杏寿郎様、天元様」
下の部屋から月奈の声が聞こえた二人は部屋へと戻る。清花は天元に頭を下げて微笑んだ。
宇「あ、俺も呼ばれたから来たけど、大丈夫だったのか月奈?」
「問題ありません。呼んだのは私ですから」
苦笑する月奈は先ほどよりもずっと落ち着いたようで、清花に笑いかけている。