第10章 潜入 *
男「待ってください!僕との話は終わっていません!」
煉「…だそうだが、楼主。藤葉についての話だろう、私も聞いても良いものか?」
怒気を含んだ瞳で男を睨み付ける月奈に、杏寿郎は驚く。これほどに感情を露わにしたのは、家族を殺されたことを思い出した頃位だったか。
ふぅ、と溜息をついた楼主を見て内儀が「どうぞ」と答える。杏寿郎は掴んでいた月奈の手を離し、視線を合わせ口を開こうとした矢先に月奈が口を開いた。
「聞く価値などありません。旦那様のお耳を汚すだけでございます」
煉「…藤葉?」
吐き捨てるような物言いの理由が分からず、杏寿郎は眉を顰める。月奈の言葉を聞いた男が更に声を大きくして発言をした。
男「月奈お嬢さん!僕は今日、身請けの話をしに来たのです!」
楼「…それはまた突飛な話だね。見る限り貴方はまだ一度も藤葉に会ったことがないはずだが」
内「勿論会っていませんよ。それが突然身請けなど、何を仰っているのですか」
僕は本気です!と騒ぐ男に、ほぉと杏寿郎は声を上げる。
煉「身請け金を出すと?いくら出してもその上を俺は行くぞ。そもそも、藤葉の気持ちをないがしろにした身請けなど楼主は許さないだろう」
苦笑する杏寿郎に、悔しそうな表情になった男はすぐに笑った。
男「僕は月奈お嬢さんの為にどんなことも出来るんだ。藤の花に囚われて屋敷から出られないと聞いたから藤の花を枯らせた。そうすれば僕の所に来ると思ったのに、月奈お嬢さんは姿を消して…こんなところで身を売っているだなんて!」
「…え?」
煉「なるほど、合点が行った!ということで、少し待っていてくれ」
言い終えるやいなや月奈を担いで出て行った杏寿郎は、一人で戻ってきた。
煉「さて、話をしようか!と言いたいところだが、俺は今機嫌があまり良くなくてな…簡潔に話そう」
宇「おい、月奈?」
「天元様…鬼ではなく人間を殺めたいと思ったら鬼殺隊失格でしょうか…」
宇「は?お前地味に怖ぇこと言うなよ!そりゃ人間はダメだろ」
突然煉獄に呼ばれ部屋に入れば、放心状態の月奈が放り出されていた。「俺のいる場所に来ないように監視してくれ」と頼んで、杏寿郎は再び部屋を出て行った。
質問も出来ず、現在に至る。