第10章 潜入 *
ニコリと微笑む清花はとても楽し気だ。男が見ればこの微笑み一つで身請け金を競って積み合うかもしれない。
「末恐ろしいですね清花さん、応援してます」
一枚も二枚も上手だと感じ取った月奈は同じ女として、絶対に敵に回したくないと思う。
花魁になることが絶対の幸せかは分からない、だからこそ簡単に応援しているなんて言えない。
(けれど、清花さんは自分の運命の中で選び取って覚悟している。まるで私が隠を選んだように)
清「…応援しているなんて他の遊女には言っちゃだめよ。私には藤葉ちゃんが素直に言ってくれてくれていること分かっているけれど、受け取り方一つで妬みからの呪詛みたいに聞こえるよ?」
綺麗な指を唇に当てて微笑む清花に、月奈はハッと気付き頷く。
「ごめんなさい。でも、目指すものがあるときに一人でも応援してくれる人がいると頑張れるから…私もそうだったので」
清「ありがとう、頑張るね。…藤葉ちゃんも何かを選択した時があったのね。だから心から応援してくれていることが分かったのかもね」
そろそろ寝よう、と清花が隣の布団に潜り込む。
月奈は布団に入りながらも考えていた。
(清花さんは振袖新造。賢くて器量も良いとなれば花魁になる日も遠くはないだろうな...)
花魁になれば華やかな将来だ。でも本当に慕う人間とは結ばれない可能性もある。それでも、花魁になると言い切った清花は、杏寿郎への気持ちがいつまでも諦められない月奈からすれば、とても真似できない。
(遊女という役割を名目に杏寿郎様に触れて貰えることすら嬉しいと思ってしまう私は…なんと汚い人間なんだろう)
いつか気持ちが溢れるのではないかと怖くなる時がある。溢れた時に受け止めて貰えるはずがないと分かっているからこそ、溢れる前に消したいのだ。だけど消すことが出来ないから、今日のように触れてしまう。
悪循環の中をぐるぐると回っていると気付いている。だけど、どうしたらいいのか答えが見つからない。いっそ杏寿郎に良い縁談でも舞いこめば諦めがつくのだろうか。
(どれも嫌だと思う私は本当にどうすればいいの…)
考えても仕方ないことばかり浮かんでくる月奈は、眠りに落ちる為に目を瞑った。