第10章 潜入 *
宇「あぁ、煉獄が月奈に懸想していることは胡蝶もだが俺も知っている。というか、皆知ってるんじゃないのか?」
勿論、月奈は知らねぇだろうけどな。と付け加えた天元は、哀れみの目を杏寿郎に向けている。
ー俺が月奈に恋慕していることを知っている?皆?
煉「穴があったら入りたい…」
頭を抱えた杏寿郎の隣で月奈が身じろぎをすると、天元は「お?姫様のお目覚めだぞ」と揶揄う。
「…え?天元様?…杏寿郎様、何をしていらっしゃるのですか?」
目を開いた月奈の頭上では、天元が杏寿郎に首を掴まれつつ笑っている光景が繰り広げられていた。訳が分からず視線が二人の間を行ったり来たりしている月奈に、天元は笑いながら
宇「煉獄の男の矜持が砕かれた所を見たから、こうなってんだ。なぁ煉獄」
煉「宇髄!それ以上喋るな!」
ますます意味が分からない、と首を傾げる月奈は起き上がるとちょうど二人の間に割って入る状態になった。
「あまり騒いでは他のお客に迷惑ですよ、落ち着いてください二人とも」
立ち上がり廊下へと向かう月奈に杏寿郎が「どこへ行く?」と声をかける。
「厠に。少し部屋も探ってきますね。この時間なら廊下に人も居ないでしょうし」
簪を全て抜き取り、着物を着崩してから部屋を出て行く。
廊下は人気が無いが、いくつかの部屋からは未だ閨事が続いている音が聞こえる。
(あの時、泣かなければどうなっていたんだろう。…ただただ杏寿郎様に触れられるだけで自分が自分でなくなるような感覚…怖かったけれど、もっと触れてほしいとも思ってしまった)
「なんてはしたない事を考えてしまったの…」
?「あの…」
突然背後から声をかけられた月奈はビクリと肩を震わせる。
男「厠に行ったら、戻る部屋が分からなくなってしまって…案内してもらえるかな?」
振り向くと、人好きしそうな笑顔を浮かべた男が立っていた。しかし、そんなことを言われても月奈にはどうにもできない。
「若い衆を呼びましょうか。生憎私には部屋が分からないので…」
男「誰も通らなくて困ってたんだ。君が通ってくれて良かった」
どの遊女の客なのだろうか、考えながら男が来た方向にとりあえず戻ってみる。