第10章 潜入 *
煉「…宇髄。一つ聞きたいんだが」
少し開いた窓から外に向けて呼びかけると、少しして外から宇髄の声が答えた。
宇「なんだぁ煉獄?月奈は無事か?」
入ってきたらどうだ、と窓を全開にする。さすがは元忍といったところで、天元は物音ひとつ立てずにするりと部屋に入ってくる。
宇「…なんだ寝てんのか。へぇ、随分綺麗にしてもらったんだな。御内儀は喜んでたぞ、お客がすぐに付くだろうってな」
窓際に座った杏寿郎の隣に寝かされている月奈を覗き込んで、天元は苦笑する。
ーまぁ、お客がつく前に撤退するんだけどな
煉「男慣れしていない月奈をここに送り込んでどうする。今回は諜報活動だ、月奈でなくとも別の女隊士で良かっただろう」
宇「月奈から説明されただろ。初任務、確実に月奈を守れる状況、年齢から考えて適任だった、てな」
煉獄に指を三本立てて見せた天元は、お館様の指示でもあるからな、と溜息をつく。
宇「俺達が私情挟んでいるわけじゃない、月奈も隠だから任務が与えられたんだ。せめてもの救いとして戦闘になりにくい諜報活動をお館様は与えたんだろうよ」
煉「…客を取らされる危険はあった。それに、遊郭では客を取る前の〔水揚げ〕があるだろう」
あぁ、それは交渉済みだ。と天元は頷く。
杏寿郎がいち早く月奈を買うことが大前提だったが、それは問題無く出来ると判断していた。
宇「だから、〔水揚げ〕は見世でしてねぇよ。月奈の様子見てりゃ分かるだろ。なんだ?変な態度とってたのか?」
煉「いや先ほどの反応は完全な生娘だったが…」
宇「は?…煉獄、お前月奈に何したんだよ!?おいおい、任務中だぞ?」
怒るわけでもなく楽しそうな表情の天元は、杏寿郎の一言で随分と気分が高揚して声が少し大きくなってしまった。
煉「宇髄!月奈が起きる!静かにしろ。…揶揄われて、仕返し程度に手を出したら…泣かれたのだ」
宇「へぇ、お前が月奈にねぇ。いつまで我慢すんのかと思っていたが、さすがに遊女と客じゃ我慢ならねぇか」
うんうんと頷いて、杏寿郎の肩を叩く。叩かれた本人は目を見開いて「は?」と呟いている。